連載『京都公演へのお誘い』 Vol. 1
 ~西村 朗/寂光哀歌
 ~中島はる/手放れ惜しみ


メールマガジン『コレ・マガ』に連載中の『京都公演のお誘い』より、今回の京都公演<邦人合唱曲シリーズ>の聴きどころをご紹介します!


京都公演へのお誘い Vol. 1

 ~西村 朗/寂光哀歌 中島はる/手放れ惜しみ


9月ももう中旬にさしかかりました。合唱団では、今週末の土日に合宿が行われ、「邦人合唱曲シリーズ」に向けた本格的な音楽づくりが始まります。

昨年は「宮沢賢治の世界」と題し、9月、10月と続けてお楽しみいただきましたが、今年は日本の古典を中心とした作品を集めました。その中から、今週は、女声合唱による2曲をご紹介します。

 *西村 朗/無伴奏女声合唱のための「寂光哀歌」*

この作品は、西村氏が京都を題材に作曲した連作の一つで、「平家物語」灌頂巻から3つの和歌を題材にしています。
 
 ほととぎす 花たちばなの香をとめて なくはむかしの ひとや恋しき

 池水に みぎわのさくら散りしきて なみの花こそ さかりなりけれ

 いざさらば なみだくらべん時鳥 われもうき世に ねをのみぞ鳴く
 
「平家物語」灌頂巻は、壮大な歴史のドラマである平家物語が、平家の滅亡によって幕を閉じたあとの、エピローグのような巻です。
生き残り出家した建礼門院が、山深い寂光院で亡き一門の人々を偲び、弔いながらひっそりとわびしく暮らしている所へ、後白河法皇が訪ね、女院は自分の波乱に満ちた人生を振り返りながら、戦のありさま、人々の最期の様子を語ります。

曲は、上記の3つの和歌のみをテキストにし、それぞれの雅で美しい調べとともに、「諸行無常」の哀しさが胸をつきます。


 *中島はる/女声合唱組曲 萬葉・防人の歌「手放れ惜しみ」*

OCMでは初めての演奏となります、中島はる氏の作品です。
「防人」とは、奈良時代、外国からの襲撃に備えて兵を常駐させるため、農民たちを徴兵したものです。その防人たちや、家族などの歌が、萬葉集には多く収められています。別れのつらさ、望郷の思い、理不尽さへの怒りなど、名もない人々の想いは、現代も全く変わりません。

そんな「防人の歌」を、ピアノ、そして箏と尺八と共に歌います。

テキストは、峯 陽「現在訳(いまやく)・萬葉集」より。原文と、現代文とを交互に示す手法のとおり、曲も、箏と尺八との共演による萬葉の世界と、ピアノとの共演による現代の世界が交互に現れます。
言葉や表現は違っても、変わらない、人の素直な心を描きます。

       *     *     *

遠い昔の事でありながら、私達の奥深くに流れるものは、今も変わらないのかも知れません。そんな、心の源流をたずねる、この秋の「古典シリーズ」です。
ぜひ、私達とともにご体験下さい!


[『コレ・マガ』 第353号(9月12日)より転載]

【2008/09/19】