連載『京都公演へのお誘い』 Vol. 2
 ~千原英喜/東海道中膝栗毛


京都公演へのお誘い Vol. 2

 ~千原英喜/東海道中膝栗毛


合宿も終わり、いよいよ「邦人合唱曲シリーズ」に向けた練習も佳境に入ってきました。今週の「京都公演へのお誘い」では、大きな演奏会では久しぶりの男声合唱ステージとなる千原氏の作品をご紹介します。


 *千原英喜/男声合唱のための「東海道中膝栗毛」*

「東海道中膝栗毛」は言わずと知れた江戸時代の大ヒット文学作品ですが、『男声合唱のための「東海道中膝栗毛」』は江戸を旅立ってから伊勢に至るまでの道中を6曲に渡って旅していく、一大音楽ドラマと言えるでしょう。

曲は夜明け前、七つの鐘が鳴る中での旅立ちの場面から始まります。道中、街道沿いの行く先々では、馬子唄や餅つき唄、盆踊り唄に駕篭(かご)かき唄といった各地の名歌が聞こえ、かと思えばその地にゆかりの和歌の一節が飛び出したりとさまざまなメロディー・テキストが交錯し、雄大な景色と人々の生活が眼前に広がるかのようです。
数々の作曲技法が男声合唱のさまざまな魅力を引き出し、時には力強く荘厳な「華」ある世界、またある時は夜更けの峠の心細さなど、色とりどりの場面を織りなしていくのは聴き逃せません。
 
また広重の辞世の句と、伊勢の波の音の中にすべてが消えていく様とからなる独特の終曲は、「旅の終わり」と「人生の終わり」が重なり合わさり、宇宙と一体化して溶けていくようで、まさに千原作品のキーワードの一つである「エクスタシーの世界」が聴き手を包み、誘います。

       *     *     *

練習を重ねる毎にこの作品の「味」がどんどん出てきて、全体が一つに繋がって行く楽しさを感じています。
五曲目で歌い上げられる「徳川家康 東照公遺訓」に登場する、「人の一生は重荷を負うて遠き道を行くがごとし」という一節が、この組曲全体を言い表しているのではないかと思う今日この頃です。

秋の「古典シリーズ」にて、今も昔も変わらない「旅」の魅力を存分にお楽しみください!


[『コレ・マガ』 第354号(9月19日)より転載]

【2008/09/19】