連載『京都公演へのお誘い』 Vol. 3New
 ~木下牧子/大伴家持の三つの歌
 ~林光/春の曲 巻の一


*** 木下牧子/混声合唱組曲「大伴家持の三つの歌」

1996年、富山県で行われた第11回国民文化祭のための委嘱作品。
越中赴任中にその名作のほとんどを詠んだといわれる万葉詩人、大伴家持の歌からインスピレーションを得て書かれた、3章からなる『混声合唱組曲』となっているが…実際これはもう、『ピアノ協奏曲』と言っても過言ではない!

富山の雄大な自然をおおらかに詠んだ長歌。実際は漢字の羅列として今に残されているわけだが、漢字を視覚的にとらえるだけで何かしらの色彩や四季感、人生観まで脳裏に浮かんで来てしまうのが「日本人」の底流にある一つの文化ではないだろうか。その心の根源を表出するのは混声合唱の芳醇なハーモニーと、そしてもう一方の主役であるピアノパート。

第1章では「テヌート気味の重厚なタッチ」、第2章では「指の腹を使った柔らかいビロードのタッチ」そして最終楽章では「一音一音粒立ちのはっきりした堅めのタッチ」というように、ピアニスト出身の作曲家ならではの繊細な指示が書かれている事からも、ピアニズムに対する熱い思い入れが伝わってくる。

何しろスケールの大きな、色彩的な組曲である。
まず和歌を味わい、イメージを膨らませておいてあとは音に身を委ねる…
そんな聴き方、楽しみ方もよいのではないだろうか。


*** 林光/春の曲 巻の一
 混声合唱とピアノ四手連弾(あるいは2台のピアノ)のために

「春の曲」について林光氏は、「1950年代のなかば、ベンジャミン・ブリテンの「春の交響曲」(Spring Symphony)にそそのかされて志した、古今の春をうたった詩の連鎖による祝祭的作品の作曲という夢が、創立50周年を記念する曲をという、宮崎県合唱連盟の委嘱によって実現した」と述べています。
今回お届けする「巻の一」では、4編の詩で、春を待ち望む冬の夜にはじまり、凍った大地が次第に解けて迎える早春の喜び、あちこちで芽吹く春の息吹き、そして永い時の流れの中で連綿と受け継がれ輝くいのちを描きます。

1 雪やこんこ  詩 矢川澄子
 あたりは一面の雪景色。しかし春はもうすぐそこまで来ている。春のおとずれに思いを馳せながら、胸ふくらませ、しばし忍ぶ吹雪の夜。

2 早春歓喜  詩 堀口大學
 凍てついた大地、冷たい氷雨、北風の厳しい冬が次第にゆるみ、春がやってきた。大地にぬくもりが帰り、木の芽、草の芽が芽吹く。すべてのものが生命に満ち溢れる春を、歓喜の歌で迎える。

3 はる  詩 さなだあきこ
 じゅずだま。やなぎの綿毛。おおいぬのふぐり。あちこちに春の証拠が芽吹いている。そして私も春。
 詩の作者のさなだあきこは、この詩を書いたとき小学校1年生だったとか。少ない言葉で描かれた世界にみずみずしい感性が光ります。

4 娘たち  詩 茨木のり子
 「娘たち」→「春」と読み替えての一章。
 イヤリング、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、お化粧や様々なファッション。遠い昔からくりかえされてきた「よそおい」は「娘たち」の生きたしるしであり、母や祖母の名残の品とともに、連綿といのちをひきついで、「娘たち」は新しく歩みだす。

  *****     *****

3週にわたってご紹介してきました、いずれも個性的な、魅力あふれる5つの曲。これだけの曲を一度にお聴きいただける演奏会は、なかなかありません!
ぜひ、明後日28日は、京都府民ホールアルティへお越し下さい。
心よりお待ちしています!



[『コレ・マガ』 第355号(9月26日)より転載]

【2008/09/26】