I 薤露青
「春と修羅」第二集に収められている詩。賢治は一度エンピツで書いたこの詩をなぜか消しゴムで消してしまったのですが、後の研究者がそれを判読してよみがえったのだそうです。薤露青は一般には「かいろせい」と読みますが千原氏はあえて曲の中で「かいろブルー」と読ませています。薤露とはラッキョウの葉にたまった露のことですが、それは人命のはかなさのたとえに使われる語と言われており、そこに哀しみをたたえる「青」の文字を附した「薤露青」は賢治の造語です。夜のとばりの中、銀河の海に浮かぶさまざまな星座への憧憬またオマージュを、銀河の大海原で寄せてはかえす波の息遣いが、やがて遠くへ運び去るかのようです。
II 有明
同じく「春と修羅」第二集より。
1曲目から一転して、明け方の情景を軽やかな曲想で語ります。
高原への夜歩きをしながら創作された詩とされており、最後にはやぶうぐいすの鳴き声がどこからか聞こえ、さわやかな山の朝が訪れます。
III 敗れし少年の歌へる
文語詩未定稿より。
『ひかりわななくあけぞらに
清麗サフィアのさまなして…』
と始まるこの詩から、千原氏は実は2つのインスピレーションを得られました。
先のEWA CHOR初演時には「旧制高等学校の寮歌のごとく(蛮勇悲壮の趣きをもって)」とある通り、堂々たるバンカラの曲であったのが、今回我々の演奏にあたっては第2番として「豪奢でありつつも、やや起床喇叭の趣きで」という朗々たる曲が付されています。どちらも歌い込めば歌い込むほどいい味が出て来ており、今回どちらを演奏しますかは、当日のお楽しみでしょうか(^^)
IV 東の雲ははやくも蜜のいろに燃え
第2曲目「有明」同様、高原での夜歩きの際に創作された詩とされています。
ピアノが前奏を奏でるとこれまた世界は一転、軽やかな日常の視点に戻り、ポップなリズムと若々しさの中に深い情感のこもったメロディは千原作品のもう一つの骨頂とも言えるでしょう。
情景を織りなしながら月へのあこがれを語り、何度もリフレインするうちに熱情はある一点に到達、第5曲目「月天子」の世界に昇華するのです。
V 月天子
補遺詩篇 II(雨ニモマケズ手帳)より。
ピアノが静かにゆったりした足取りを進める中、シンプルで繊細なメロディを奏でる人の声。たくさんの音は必要ではない、精神の充実した世界を表すかのようです。