邦人合唱曲シリーズへのお誘い ~荻久保和明「IN TERRA PAX」
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IN TERRA PAX―地に平和を。
ベトナム戦争のころに鶴見正夫が書いた詩「太郎は知った」を荻久保和明が合唱曲のうたにしたものをベースに、戦争と平和をテーマにした混声合唱組曲として作られた。その後、女声合唱版、男声合唱版も作曲され、鶴見が「少年少女からおとなまで、誰もがうたえることを願った」とおり、広い世代に歌われている。

I.知った
前述の詩「太郎は知った」の改作。
「太郎は
 戦争を知らない
 その恐ろしさを知らない
 むごたらしさを知らない
 だから戦争へのにくしみも知らない」
そう、知らなかったのだ。一枚の写真を見るまでは。
この同じ星の上で、同じ空の下で繰り返し行われている戦争。それは決して遠い昔のものがたりではない。

II.OH MY SOLDIER
戦争で散った世界中の無数の若者の命へのレクイエム。
はてしない空、かわらない空。その風の中から声が聞こえてくる。
「ゴメンナサイ オカアサン
 モウヒトツ イノチガホシイ」

III.花をさがす少女
美しい花に命への愛を託し、一瞬にしてそれを奪いとる戦争の無残さ。
「花をさがす少女
 あの花は
 どこへ行ったの」
さまよい歩く少女のさがす花は、戦争で殺された肉親の命であろうか。友の命であろうか。戦い死んだ兵士の命であろうか。
そして少女自身も一瞬にして消え去るのだ。飛び散り跡形もなく。

IV.ほうけた母の子守歌
消え去ることのない怒りと怨念。
「ねんねこねなさい
 はよねなさい」
木枯らしの中くりかえしくりかえし子守歌を歌う母。いのち連れてく鬼に連れていかれ、きえた子どもに向かって。

V.IN TERRA PAX 地に平和を
この地球に生きるもの、すべての命のための「IN TERRA PAX」―“地に平和を”
命にあふれ輝く地球。大地のリズムにあわせ、宇宙のメロディにつつまれ、人も、鳥も木も草も生きるのだ。
光り輝く平和への讃歌であり、ほとばしる祈りだ。

「全篇に静かな“祷り(いのり)”の心」をこめたという鶴見、そして「音達に狂気と、愛と、祈りを閉じこめようとした」という荻久保。
二人がこの作品にこめた熱い思いが、演奏されるごとに人々の心の中に深く、力強く伝わり、広がっていく。音楽のもつ力を感じるのはそんな時だ。

【2009/09/25】