「楽園」を目指した古代人の足跡 ~「現代音楽シリーズ」曲目より~(コレ・マガ掲載記事より)


『~西洋と日本 その点と線~』と題してお届けする、来週10/25(日)の現代音楽シリーズ。今回は、19~20世紀の西洋の作曲家による2作品と、日本の同時代作曲家による2作品とを採り上げたプログラムとなっています。

ホルスト(1874-1934)およびバルトーク(1881-1945)からは今回、いわゆる「現代音楽」と聞いてイメージされがちな前衛的なものというよりもむしろ古典的な音楽手法を用いていながら、イギリス音楽・ハンガリー音楽のそれぞれが持つ民俗性あるいは独特の空気が、くっきりと表れた曲を採り上げました。
一方で、日本の現代邦人作曲家の最新作2曲は今回、いずれも日本の古の時代、日本人のルーツを題材としています。

今日ご紹介する、鈴木憲夫/混声合唱とピアノとマリンバのための「楽園」は、福井コールアカデミーの委嘱作です。作曲に際して大きなきっかけとなったのは、朝鮮半島との交流を深めたと言われる福井ゆかりの人物、第26代の天皇である「継体大王」でした。

当時日本列島と朝鮮半島の国々の間には、さまざまな側面で密接な関係があったと言われています。継体大王は大陸から五経博士を招聘し、日本における儒教の基礎を築きました。また史料には、当時の日本が半島の情勢と深く関わり、百済に対して援軍を送ったことや、戦争で荒廃した国の民が日本に多く渡ってきたことなどが記されています。

今回演奏する「楽園」は、このような時代背景をモチーフとして、戦争で退廃した国を憂い、日本に理想の地を求めて渡来した当時の人々を描いています。

古くから人々は、自らの住みたい理想的な地を求め、集団を作り、繁栄を築きあげてきました。しかしその繁栄は、いつか富と力のみを求める人を多く生み出し、戦で多くの血が流れます。やがて国は荒廃し、理想の地は失われてしまいます。
呆然と佇む人はやがて、新たな理想の地を「日出ずる地、日の本の地」に見いだし、立ち上がって海を渡っていくのです。

人は、ずっと変わらない「業」を背負って、同じ事をただ繰り返しながら生きていくしかないのか。それとも、その目指す理想の先には希望があるのか。
現代に生きる私達一人ひとりへの大きな問いかけが込められています。
鈴木氏の代表作「祈祷天頌」や「永久ニ」を彷彿とさせる、古代の情景が目に浮かぶような音と言葉の妙、突き刺さるような人間の「想い」とともに、最新作ならではの氏の音の運びをお楽しみいただけることと思います。

ちなみに、同日演奏する千原英喜の「いつくしきのり」が題材としている聖徳太子は、継体大王の曾孫にあたります。
今回奇しくも、2つの邦人作品がこのような線で結ばれることとなりました。

ヨーロッパ音楽において民俗的要素を生かすことに努めた2人の作曲家と、日本の新しい音楽の創造の最前線に立つ2人の作曲家。それらの作品がどのように響くのか、生で体験していただける『現代音楽シリーズ』はいよいよ来週末に迫りました。
10/25は大阪・いずみホールへ、ぜひお越しください!!

【2009/10/16】