A.ペルト「巡礼の歌」 その祈りの世界


ティンティナブリ(鐘)と作曲者自らが名づけた独特の様式の魅力に、数多い現代音楽作曲家の中でもファンの多いA.ペルト。
10月の「現代音楽シリーズ」での日本初演に引き続く関東初演として、今回演奏する「巡礼の歌」は、オリジナルとしては1984年に独唱と弦楽四重奏のための作品として書かれ、のちに男声合唱と弦楽オーケストラのために編曲されたものです。

この曲は、亡くなった友人に寄せて、その友人の死後の旅路の無事を祈る曲として書かれました。

冒頭および終盤は、9拍子の弦楽合奏。ヴァイオリンによる持続音の緊張の中、動きのあるパートが禁欲的ながらもペルトらしい音の運びを重ね合い、ずっしりと精神性のつまったレクイエムとして響きます。
3拍子の中間部に登場する、何十小節もの間同じ音高の斉唱がひたすら続く男声合唱は、ドイツ語の詩篇121をテキストとしています。「主はあなたをすべての悪いものから守ってくださる、休むことなく、永遠に…」と、旅立った者へ切々と一心にささげる祈りの歌です。
歌と弦楽合奏との対比は、彼岸と此岸との対置を表しています。
決して大音響でなく静謐で、時間の流れから切り離されたような不思議な音楽が造る世界は、この世のものでない空間がホールに現れたかのように、聴く者を引き込んでいきます。

ファンの方はもちろん現代音楽にあまりなじみのない方も、気がつけばペルトの世界に思わず入り込まずにはいられない、そんな音楽体験となるのではないでしょうか。
記念すべき関東初演に、ぜひお越しください!

―メールマガジン□■コレ・マガ■□第458号(2010.10.15.)記事より改訂

【2010/11/19】