特別対談模様 ~「第20回現代音楽シリーズ」委嘱作品に寄せて


来たる3月13日の名古屋公演では、昨年の委嘱作品より『たいようオルガン』と『カンタータ〈洪水〉』をお聴きいただきます。
昨年10月に大阪で初演いたしました時は、作曲家の木下牧子・千原英喜両氏、テキストを書かれた荒井良二(絵本「たいようオルガン」作者)・川崎隆司(「音韻訳ギルガメシュ」著者)両氏がお越しになり、演奏の前に当間修一との対談の形でお話をされました。
曲を創られた先生方のお話を直接お聞きいただける、現代音楽ならではの貴重な機会に会場は大いに盛り上がり、またご来聴のお客様にとっては演奏を一層お楽しみいただけたのではないかと思います。

それぞれに興味深いお話のほんの一部ですが、抜粋しご紹介いたします。

※会報誌『シュッツの会便り』2月号より転載。記事内容は、当日の対談をもとに、「シュッツの会便り」編集委員にて再構成致しました。

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まず木下牧子先生に、絵本「たいようオルガン」との出会いをお聞きしました。

木下先生:オーケストラ伴奏で合唱曲というのは、普通の詩ではちょっとはまりにくい。日本の良い詩ってたくさんあって、好きな詩人もいっぱいいるんですけど、大体において抒情的なもの、私小説的なもの、あるいは芸術的だとすごく内省的なものが多くて。二管オーケストラの色彩を使って、生きてる素晴らしさみたいな、輝かしいエネルギーみたいなのはないのかしらと、委嘱を受けてずーっと探してまして。軽井沢の絵本美術館にたまたま行ったとき「たいようオルガン」を見つけて「これだっ!」と思って。お名前とか絵本は前に見てたんですけどやっぱり「たいようオルガン」が特別これだ!と思いました。絵本でも、子供向きって感じは一切しなくて、これは疲れた大人へのエネルギー補填剤?私はとにかくエネルギーをものすごくいただいたと思っています。

続いて絵本「たいようオルガン」の作者である荒井良二先生にお話を伺いました。

荒井先生:絵本というと子供のもの、と皆さん思ってらっしゃるところがあると思いますが、僕はそうは考えてなくて子供も読める、大人も読める、と。子供用に何かをつくるっていう意識は無いんですよね。大人の自分をぶつけるしかない。だからそういう意味合いで、意識でもって絵本を作っているので、今回はお誘いを受けた時にはすごく嬉しかったです。
僕は、絵を描いているというよりは、線を描いたり色を塗ってる、あるいはひっかいてる、そういうなんて言うんでしょうか、絵を描いている以前の衝動みたいなものを大事にしたいんです。衝動があっても技術でもってどんどんどんどん小さくなってしまう。もってる意識が、小さくなっていくってことはもう体験的に何度もやっているので、何故、何か、どうにか、何かそのままダイレクトに何か表現できないもんだろうかと思っています。

絵を描く時に筆を使わず、描きあがった時はペンキ屋さんのようにドロドロ、体中絵具でいっぱいになるという荒井先生でした。
次に、ギルガメシュ叙事詩の音韻訳をされた川崎隆司先生に、訳への思い等をお聞きしました。まずギルガメシュ叙事詩の成立等を熱く語られた後に、

川崎先生:旧約聖書にも洪水の場面が出てきますけど、旧約の洪水よりギルガメシュの洪水の方がはるかにすごい!これから(曲を)お聞きすればわかると思いますけど、はるかに迫力があって描写力がすごいんです。「雨土は壺のごとく砕けたり。人間ははららご…つまりイクラみたいなものですね…となって水に浮けり」ていうような素晴らしい文句が出てくるんです。土居光知(どいこうち)さんがその部分だけ英語から訳された、昔断片でそれを読んだんですけど、古代人の魂に直接触れたようなものすごい感動を覚えました。
洪水の場面でノアの箱舟が出てくる、その大きさについてお話しておきましょうね。ノアの箱舟は133m×55m×高さが15mです。約2000tです。ちょうど今の小さなタンカーと同じくらいの大きさですね。それから、ギルガメシュのは立方体で、150m×150m×150m、およそ7500t。それを進水するわけですけども、つくる時の苦労が大変生々しく書かれています。そういう事をも御留意しながら、今日の素晴らしい、人類最古の、楔形文字で書かれた古代叙事詩をお聞き下さい。素晴らしいです!

まだまだお話が尽きそうにない、私達ももっと聞いていたい、熱のこもったお話でした。
最後に、千原英喜先生に当間先生から、今まで日本の古代の精神や音を表現されてきたのに、どうしてメソポタミア、シュメールなのかと質問がありました。

千原先生:日本の古典、『方丈記』とか『竹取物語』、聖徳太子の十七条憲法まで曲にしてしまいます。日本人は何か、ということを、音の楽しさとか喜びを越えて、やっぱり音楽家として提示していかなきゃいけない。それには日本の古典というものを、じっくり自分ができる音の世界へ移し替える。それで、自分は何であるか、どこへいくのか、ということを探し求めたいという気持ちですね。それがだんだん大きくなってきまして、人類、普遍的、日本の次に替るものは何かな、と一番古いものに突き当った。 僕が古典等のテキストで感じるのは『言霊』、川崎先生の訳は「音韻訳」といいますけども、現代語じゃなくて古文に近いような、奥ゆかしいんですよ。そこに、今までの仕事と同じような『言霊』を感じて作曲しました。本当に良い詩に巡り合えたと思います。

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それぞれの創作にまつわる大変興味深いお話を伺うことができた、これら最新委嘱作品を実際にお聴きいただける“名古屋公演”は、3月13日(日)三井住友海上しらかわホールにて開催いたします。

この時代に新たに生まれた音楽を、ぜひライブ演奏でお聴きになりませんか?
新しく、熱い音楽を聴いて頂ける名古屋公演に、どうぞお越しください!!
一同心よりお待ち申し上げております。

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【2011/02/24】