楽器ミュージアム


プーランクについて

ファゴット:渡辺 悦朗



 「人間」それも目の前で生きている人には「年齢」があります。
しかし、過去の作曲家、そして彼らが生み出した作品の数々には 「賞味期限」は無いといえるのではないでしょうか。

 フランシス・プーランク−生きていれば100歳、
昨年やはり生誕100年のジョージ・ガーシュウィンは今年101歳、ともに 「金さん銀さん」より年少にあたる彼らの作品の特長としては、 クロスオーバー的名作風を持っているといえるのではないでしょうか。
 プーランクより知名度の高いガーシュウィンの「スワニー」 「ス・ワンダフル」等をクラシックとして分類するのには勇気が いりますが、かといって「サマー・タイム」をふくむ黒人オペラ 「ポーギーとベス」や「ラプソディー・イン・ブルー」をジャズの スタンダード・ナンバーと決めつけるのにも無理が生じます。
つまりガーシュウィンの世界を狭いジャンルで分類しようとする こと自体がナンセンスなのです。

 しかし、これは彼に限らず、「ベートーヴェンは古典だ」 「いやロマン派だ」とか、「チャイコフスキーはシンフォニーだ」 「いやバレエだ」「何をいっているオペラだ」といったぐあいに、 私達「凡人」は形にはめないと理解できないのかもしれません。
 プーランクは私達よりはるかに広い視界と教養を持っていた様です。 彼自身の言葉にも「子供のころから街路に響くアコーディオンと クープランの組曲を区別なく愛していました」とあり、この言葉は、 そのまま彼の作風にもあてはめられます。

 私の特に好きな作品の一つに、ジャン・アヌイの詩に作曲された 「愛の小径」があります。
この曲は当時シャンソン・ワルツの女王と 呼ばれたイヴォンヌ・プランタンが歌って有名になったため、 残念なことにプーランクはシャンソンだけの作曲家と思っている人も 多いようです。

 今回の「現代音楽シリーズ」(ゲンダイオンガクという響きの 似合わない人だとは思いますが)で演奏いたします「グローリア」も カトリックの宗教曲ですが、不良っぽい、親しみやすい下町風の 味わいも含まれています。
 プーランクの作品には親しみやすく入りやすい反面、私のように 一度好きになったら抜け出せなくなってしまう麻薬の様なおそろしさが あると思いますが、その理由は彼の作品の中にいろいろな素晴らしい 矛盾が満ち溢れているからではないでしょうか。
 今回の「現代音楽シリーズ」では彼の作品の中でもライブで 演奏されにくい大規模な曲をセットでお送りします。今回聞き逃すと、 ひょっとすると100年後になるかもしれません。

 皆様のご来場をお待ちしています。そして沢山のプーランク中毒が 生まれますように。

【プーランクの項  終わり】


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