2000/5/10
<「ヨハネ受難曲」汗と涙の初体験記 >

(今回の担当:SOP.松浦由佳)

ソプラノの松浦です。
今回、「ヨハネ受難曲」のステージに
立つという貴重な機会を与えて頂きました。

私がヨハネを歌うのは今回が初めてでした。
今回のメンバーは、ほとんどが「ヨハネ」を
1度は経験した人たちでした。
シュッツ合唱団歴まだ2年。未熟な私は悩みました。
「果たして私はこの中で歌っていけるのだろうか?」と。

しかし、私の大好きなバッハの曲、
しかも、シュッツ合唱団の経験者たちに
「人生観・世界観が変わってしまう」
と言わせてしまうほどの大きな力を秘めた曲です。
歌わずにはいられませんでした。
計り知れない不安はありましたが、思い切って
「ヨハネ」の世界に飛び込むことにしたのです。

しかし、この大曲に短期間でしかも1から臨むというのは
本当に大変な事でした。
(覚悟はしていたのですが・・・)

楽譜と格闘し、ドイツ語の辞書をめくる・・・
メロディーが歌えても言葉がついていかない、
言葉が話せたら今度はメロディーが・・・
そんな日々がしばらく続きました。
「こんなんじゃ全然間に合わないよ・・」
不安ばかりが頭をよぎり、1日を終える頃にはいつも疲労こんぱいの状態でした 。

しかし、言葉にもようやく慣れ、内容に目を向ける余裕が出てくると、
私の中で一気に「ヨハネ」の世界が広がっていきました。
今まで「物語」でしかなかった「イエスの受難」が、
現実と重なってきます。
自分の師を否認してしまうペテロも
「十字架につけろ!」と叫ぶ群衆も
現実の自分と重なってくるのです。
「私だって似たようなことやってるかも・・」
今まで見ないようにしてきた「自分の中の弱さ」
と向き合わざるを得ませんでした。
辛い経験でしたが、これで、自分が少し成長できたような気がしました。

そしてあっという間に迎えた本番。
私の中でそれぞれの会場が「イエス受難の場」と変わってゆきます。
群衆となった私の目の前で、イエスが十字架にかけられ、息絶える・・
そして、最後のコラールを歌い終えた瞬間、
普段感動しても泣くことのない私が、涙を流していました。
こんな演奏会は初めてでした。
「歌を続けていて本当に良かった!」と心から思いました。

しかし、やはり「ヨハネ」は難しい・・・
自分の今の実力が裸にされ、未熟さを痛感させられる
そんな曲でした。
とてつもなく大きな感情に押しつぶされた私は、
歌のコントロールができなくなっていたのです。
「この思いを全部歌に出してしまいたい!」
そう思っても、体はちっとも言うことを聴いてくれませんでした。
自分だけでなく、聴いている人にも感動してもらうには
もっともっと修行を積まなくては!と感じたのでした。

こうして、私の汗と涙の初体験は終わりました。
まだ、様々な思いが交錯し、整理し切れていませんが、
この気持ちの整理がついたとき、
私の人生観はちょっぴり変化しているかもしれません。
それだけ、「ヨハネ受難曲」は大きなエネルギーを秘めた曲でした。
すべてを終えた今、ようやくその事を実感したのでした。


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