2003/7/3
<現代音楽シリーズ:「初チャレンジャー体験記!」>

(今回の担当:Alt. 戸井恵子)

OCM合唱団アルトの戸井恵子です。
昨年の現代音楽シリーズが初舞台だった私もあれから早一年が過ぎ、去る6月29日、今年の現代音楽シリーズの演奏会が終わりました!
前日まで雨模様が続き心配していましたが当日はお天気にも恵まれました。
蒸し暑い中ご来場頂いた皆様、遠方からお越し頂いた方々も含め、本当にありがとうございました!

前回の合唱団日誌の時も「初体験」の話でしたが、今回も然り。
今回の演奏会はプログラムのひとつひとつが全く異なった世界と魅力と難しさを兼ね備えた曲ばかりということで、室内合唱団とSCO(シンフォニア・コレギウムOSAKA)による演奏会となりました。しかも委嘱初演が2作品、更に日本初演が1作品という凄さです。
聴くのが楽しみ〜、とウキウキしていたのもつかの間、OCM合唱団の中からも出演したい人はパートリーダーに申し出るようにという話があり私もチャレンジすることに。と、言ってしまえば簡単なのですが、室内合唱団の演奏会に参加するということは相当の覚悟が。パートリーダーに申し出るだけでもコワイし(いえ、怖い人ではないのですが・・・)、どうしよう、本当に自分に指揮者が創る音楽を表現し、そして何よりも、客席の皆様に来て良かったと思っていただける演奏ができるだろうか、する覚悟があるだろうか、と悩みに悩みぬきやっと決心しました。
こうして私の「チャレンジャー初体験」生活が始まりました。

当日のプログラムは1曲目が千原英喜先生の「猿楽談義<翁>」。
世阿弥の「風姿花伝」からテキストをとり、能のルーツである申楽(猿楽)を題材とした作品です。
今回の「チャレンジャー生活」はこの曲か4曲目のグレツキの曲かどちらかを選ぶところから始まりました。どちらもとてもいい曲、またどちらもとても難しい曲です。
あれだけ悩んだ後なのにまだまだ悩みは続きます。

最終的に私はこの「猿楽」を選びました。 
「風姿花伝」も、能作品「翁」も、現代人の私にはかなり意味不明だったにもかかわらず、歌ってみて何か心に染み入るものがあったからです。風姿花伝の引用を歌いながら、日本人の心、あるいは普遍的な精神性とでもいうのでしょうか、そんなものを感じ、自分の中にある日本人のDNAがそれを探ってみたいと言っている様な気がしました。
しかもどんな作品に仕上がっていくかが全く未知数の初演作品です。
期待と不安で一杯でした。

もちろんいつものように猿楽やお能について、合唱団一丸となって勉強しました。
いつもながら見事な連係プレーで、時間をかけて集めまとめ上げた資料、面、演奏で使用する楽器、能のセミナーや能の映画の体験記、ビデオ、音源、更には演奏会にお誘いする手紙を書く時に使用する団員手作りの「猿楽便箋」(!?)まで登場し合宿で勉強会です。一部の資料や小道具は演出に使用し、翁と三番叟に扮する団員のシルエットと共に客席の皆さんにも御覧頂きました。

「風姿花伝」は内容を紐解いてみると、能を舞う子孫へ世阿弥が宛てた、厳しい精神性を書き残した書物でした。
庶民の素朴な楽しみとしての猿楽が、祝祭的な能「翁」へと発展し、そして更には能は世阿弥の言うような演じる者の心を写し出す高い芸術性を持ち始めたようです。この世阿弥の精神は、これから演奏会に臨む私にも心が引き締まる強いメッセージを持っていました。というのも、この曲を選んだもう一つの理由は人に付いて行くだけでは決して歌えない曲だと思ったからです。(今までのどの曲も、もちろんそうでなければなかった筈なのですが・・・。(苦笑))
本番が近づくにつれて、練習も本番同様の緊張感が増し、更なる集中力が必要とされます。そんな緊張感に押し潰される事なく、ひとりの「演ずる者」として舞台に立とうと、そしてこの曲の各段階での「情景」が、聴いて下さる方々の心に浮かぶようなそんな演奏をしたい、と祈りながら本番に臨みました。

私のドキドキするような「初チャレンジャー」ステージは、こうしてあっという間に、しかし、とても密度の高い時間の流れ方で過ぎて行きました。
  ここで力尽きそうでもあったのですが、考えてもみて下さい! 
1曲目でステージが終わるということは、2曲目からは演奏を聴ける、という事でもあります。(笑)
  もちろん1曲目と2曲目の間には休憩はありません。
舞台転換の間に着替えて客席まで行くなんて至難の業です。が、信じられない速さで着替えを済ませ、もう2人の「猿楽」チャレンジャーと共に猛ダッシュで客席へ。かろうじて滑り込み、普段の運動不足がたたってかゼイゼイ言いながら無事着席。同じく千原先生の初の弦楽曲「天地紋様」に間に合ったのです!

  この「天地紋様」、実は今回私がとても励まされた曲でもありました。
同じ千原先生の書かれた曲なのに「猿楽」とは全く異なった世界を持つ曲です。
初めてSCOの練習を覗きに行った時は、音の関係が面白くどんな風に仕上がっていくのか本当に楽しみでした。2度目に聴いた時は弦楽らしさが加わり音楽もどんどん出来上がってきていました。
そして本番。
初めて聴いた時から感じていた情景、まだ国境も何もないどこまでも続く広大な大地が浮かんできます。
この曲を聴いていると自分の日々の忙しさ、ストレス、悩み、自分の力ではどうしようもない出来事など、全てがとてもちっぽけなものに感じられてきます。
世界は、地球は、宇宙はこんなにも大きく、そこにあって、私を包んでくれている。
せせこましい時間や距離の観念が全て無意味にさえ感じられてきます。
そんな広大な大地に、各パートが入ってくる度に生命が産まれる。静かな、しかし究極の感動です。2楽章で涙が溢れ始め、終楽章では涙腺が切れっぱなしの状態になってしまいました・・・。
皆さんの中にもいろいろな思いでこの演奏を聴かれた方が多いのではないでしょうか。

プログラム後半もドキドキしっぱなしの演奏会でした。
3曲目の西村朗さんの「青猫」では、これぞ現代曲の中の現代曲(!?)という様なシュール・レアリズムの妖しげな世界に聴いている方も息もつけないような興奮を覚えました。
最後のグレツキの「聖アダルベルト・カンタータ」では合唱団を2階席両側へ配しての演奏。降り注ぐような声の響き。次第に各パートの声が全く違うところから聴こえ始め、ヨーロッパの大聖堂で聴いているような音の不思議さえ味わえました。

聴きに来てくれた知人が、こんな曲全てを1つの演奏会に取り込むなんて考えられないことだ、と言っておりました。(笑)
現代音楽って本当に無限の可能性を持っているんだなぁ、と楽しそうに語る姿を見ながら、もっともっと沢山の方々に聴いて頂けたらいいな、としみじみ感じました。

千原先生の「天地紋様」は11月9日の東京公演で再演される予定です。
すでに聴けるのを楽しみに待っている私の東京の友人(初めて練習を聴いた時、興奮してメールしてしまいました・・・)も含め、東京近郊の皆様はこう御期待!もちろん関西を初め、遠方からのお客様もお待ちしています。
千原先生の深い深いメッセージを是非、生で味わって下さい!


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