2007/2/15
<「蘇るドラマ 演者が語るヨハネ受難曲」>

(「シュッツの会便り」より転載)


昨年4月に大阪でバッハの「ヨハネ受難曲」をオペラ形式でご覧頂きましたが、来る3月、再び東京で公演致します。
イエス・ピラト・ローマ兵が昨年の演奏を振り返り語ります。
(イエス:ベース/淺野毅彦 ピラト:ベース/長井洋一 ローマ兵:テナー/飯沼正雄)

■「オペラ形式」でしたが、難しかったですか?
 いつもとどこが違いましたか?

◆イエス◆
 何と言っても演技すること自体が大変でした。また「音」だけでなく「場面」や「動き」をも(どんな場面で自分はどんな演技をするのか、そして回りの人たちの動きは?)絶えず想起しながら演奏しないといけないので、普段の3倍の処理能力が必要で・・・。
 また、普段の演奏会とは異なって、かなりの頻度、指揮の当間先生が見えない状態で歌わなければならないのはとても「怖い」ことでした(以前シアターピース物を経験していなかったらどうなったことでしょう?)。
 一方、具象的になったことで物語や役柄が格段リアルに感じ取れるようになり、受難物語の世界の中にすんなり入り込めたのは、演出付きの利点ですね。

◆ピラト◆
 歌いやすかったです。全部暗譜ですから大変なように思われるかもしれませんが、重たい楽譜を持たないことは発声上とても歌いやすいです。それにどんな演奏会も楽譜は持っていますがほとんど暗譜しているのと同じ状態で歌っていますから、暗譜が特別苦になることもありません。

◆ローマ兵◆
 熱く演じる部分と熱くなりながらもどこかに冷静な部分を残しておかなければならない音楽する部分とのバランスを保つのが難しかったです。結局はかなり熱くなってしまいましたが・・・(苦笑)。
 特に私の場合は、受難劇の中でもイエスに対して直接的に暴行を加え、嘲笑、罵倒する役柄でしたので、テンションをかなり上げる必要がありました。
 イエスの頭に冠をかぶせる時に彼の髪を鷲掴む場面がありますが、本番であまりに本気でやってしまい、イエス役の淺野君の「うっ(痛)」といううめき声が聞こえたときは、流石にやりすぎた(焦)、とは思いました(苦笑)。
 ですから、(リハーサルの時点から既に)、この役をやった晩は決まって目が冴えてしまい眠れませんでした。


■役作りや演技の練習等はどの様にしましたか?

◆イエス◆
 イエスってどんな人なんだろう・・・?
『パッション』『奇跡の丘』など映画を見たり、色々なイエスについての本(田川先生の著作からM.ワルトルタまで)を読んだりしましたが、イエスの具体的なイメージが掴めなくて悩みました(今でもよく分かっていないのです、なにしろ相手は神様です)。
 実際の場では場面場面で自分の感情がどう感じるか、それに応じて身体がどう動くか(ぎこちないのですけどね)、そういったことを考えて動くようにしていました。

◆ピラト◆
 練習をするにあたって、まずドイツ語の勉強から始めました。すべてのテキストが原語で理解できるようにすることが必要で、それも頭の中に日本語の「対訳」を作らずに、できる限り「ネイティヴ」の状態になるように繰り返し繰り返し読み込みました。イエスや群衆との対話の「間」や「口調」「表情」がストレートに感情表現できるようにするためです。演技の練習は特別何もしていません。テキストの内容さえしっかりわかっていればなんとかなると考えたからです。また、OCM合唱団、シュッツ室内合唱団はオペラの演奏経験はありませんが、以前から柴田作品のシアターピースを多数演奏しています。動きや表情はそのとき培われた大きな経験が生かされています。

◆ローマ兵◆
 内面的なものを出さなければならなかったイエスやペテロに比べると、怒り、狂気を爆発させればよいという兵士の役はまだやりやすかったのではないかと思います。ただ、今までに人を殴ったり、鞭打ったりしたことはなかったので、いかにそれらしく見せるのかには苦労しました。
 暴露しますと、殴り方に関してはイエス役の淺野君を(合意の上)実際に本気で殴って確かめることもしました。


■衣装はいかがでしたか?

◆イエス◆
 誰がどういう立場(身分)の人か一目で判る衣装でしたよね。
イエスの衣装なんですが、物語中、兵士達がくじ引きをしてイエスの衣装を4つに分けるエピソードが出て来ますよね、それを忠実に再現出来るよう、服を4つの部分に分けてマジックテープで留める工夫をしてあったんです。
 他にもユダヤ人/兵士の服など色々工夫があったり、沢山の人の服を縫ったり、衣装部の皆さんには本当に頭が下がりました。

◆ピラト◆
 ピラトの衣装はもう一工夫いりますね。できるだけ大きく、偉そうに見えるようにしたいですね。マントも、もっと豪快にたなびくようにしたいですね。
 でも、ユダヤ人とローマの兵隊の衣装はうまいことできてましたでしょ。数秒でユダヤ人からローマの兵隊に「変身」し、また元のユダヤ人に戻ることができます。あれには感心しました。

◆ローマ兵◆
 ヒゲ面が功を奏したのか、兵士の衣装は周りからは似合っていると言ってもらえたのは嬉しかったですね(笑)。また一瞬舞台袖に下がったタイミングで兵士からユダヤ人・大勢の一人に早変わりをしなければならないことがありましたが、スムーズにできました。これもこの衣装を考案した衣装部のすごいところです。


■最後に、見どころ・聴きどころを教えて下さい。

◆イエス◆
 高い技術を要しかつ非常に劇的な合唱は勿論のこと(『ヨハネ受難曲』は合唱中心の曲です)、ペテロの否認の後の第13曲のアリア(テノール)、第37曲のアリア(ソプラノ)、第39曲の合唱("Ruht wohl")を経て終曲の万感極まるコラールなど、いいなと思う所は沢山ありますね。
 演出が付いたという所では、まずダイレクトに受難物語を理解出来るのが一番ですね。特に第2部の合唱の動きは圧倒的です(合唱そのものも勿論すごいです)!そして、終曲の後の演出。前回は、その後のキリスト教の歴史を暗示するものであり、かつ、これは遠い昔の話ではなく、現代の私たちにまで繋がることなのだ、あなたはどう生きるのですか?と訴えかけられている気がしました。今回はどうなるのか、演奏する立場としても非常に楽しみです。

◆ピラト◆
 やはり、ユダヤ人たちの合唱の鬼気迫る迫力でしょうか。あの複雑な曲を、動きを伴いなおかつ指揮もあまりよく見えない状態できっちり演奏できることは「神業」に近いものがあります。
 ソプラノ、アルト、テナー、バスの4パートはパートごとに集まっておりません。つまり、自分の横に同じパートの人がいるわけではありませんから、合唱団員はすべて一人のソリスト状態になっております。この状態でパートとして声をまとめ、和声をつかみながらそれを四声の合唱にし、なおかつバッハのフーガを歌う! これは普通は無茶な話です。「それぐらいできるんとちゃう?」と言われる方には「やれるもんならやってみー!」と下品ですがに言いたい気分です。
 また前回のいずみホールのヨハネをご覧になられた方も、東京公演の演出はかなり変わる予定ですので楽しみにしていて下さい。

◆ローマ兵◆
 音楽だけでなく、ビジュアル的にもイエスの受難を目の当たりにしてもらえるこの演奏会は、普段バッハの音楽に馴染んでいない方々にも、十分楽しんでいただけると思います。2000年前に起きた事を音楽と演技で疑似体験していただければと思います。
 また、団員の普段と違う新たな一面を発見していただけるチャンスかもしれません。


関東にお住まいのお友達、お知り合いの方にも、是非ご案内下さい。 舞台を変えて、より一層ドラマティックに蘇るヨハネ受難曲、皆様のご来場を心よりお待ちしております。

Back

Next