八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.34


【掲載:2014/08/07(木曜日)】

やいま千思万想(第34回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[音の不思議は奥深い]

 私の夏の恒例、「合唱講座」が東京、名古屋、京都で開講です。
オルガンを奏し、指揮者の私が何故合唱の「発声」を教えるようになったのかは止むにやまれぬ必要に迫られてのこと。
 音楽活動が西洋音楽史のバロック様式から入った私にとって、我が国の主流であるロマン派の様式はとても音が暗く、重く、濁って無骨なものとして映りました。
 私が目指す演奏にはその逆である、軽やかで、繊細、澄み渡った響き、そして多声のメロディーを歌い分けられる声が必要です。
 西洋と我が国の発声の違いを調べます。
どうしてこんなにも洋の東西の響きと様式が違うのか?
真逆といっていいほどのその違いの要因がどうしても知りたくて、発声法について考査。
結果は文化の違いによる思考、言語、身体、音に対する感覚の違いが要因だったのですが、幾年にもわたった摸索と実践の末、確信に至ったのが「発声の原理」。
人間の生理に依った発声原理を基として、世界の異なる文化とも共通する、人間を繋ぐ音楽言語としての発声法を整えました。

 それを伝えようとする「合唱講座」。
今年のポイントは、音・声の発音原理と耳・脳の特徴。
まず解剖学的に発音の仕組みを説明した後、「口笛」や「指笛」、リコーダーやフルート、ギターの発音原理を示して何故音が鳴るのか?の説明。
これは楽しいものになりました。
多くの受講生ができなかった口笛や指笛が、音が空気の波であることを知って音が出るようになります。
そして更に口の形、舌の位置によって音の高さ、音色が変化することも体験。
音づくりには「周波数」「倍音」という日本人には厄介な問題があることも「楽器を鳴らす」ということで知ります。
 続いて耳の意外な性格、「外」に強く「内」に弱いという特徴を説明します。
耳は外敵から身を守るために発達した器官です。
外からくる音には敏感なのですが、自分の声を聴くことは苦手なのですね。
自分の声をテープなどで聴いたとき「これが私の声?」と驚くあの体験です。

 音を整理する脳にも特質があります。身を守るために脳は音感知の遮断や軽減を一時的に行います。
次々と聞こえてくる突然の変化に興味を持たせるため、同じ音が数十秒間伸ばされると脳自身がその音に注意を払わなくなり、大きさの感度も減少させてしまいます。
 数字や文字や音の記憶も、人間の短期記憶の限界はおよそ七つであることが判っています。
これは音楽に使われている音階が7音を基礎としていることにも合致する特徴です。
七つが最も扱いやすい、つまり記憶しやすい数なのですね。人類は初め五音音階が主流でした。
それが「半音」(ファとシ)という音を見出し、使用することで七音としたのですが、これがいわゆる洋の東西における音楽の分かれ道でもあったのですね。
 音楽は空気の波である音の操作です。
音を作り出す仕組みを知り、受け手である耳、情報処理場である脳の特徴を併せ持って「音楽の音」となります。
まだまだ未知なる音楽の世界です。





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