八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.40


【掲載:2014/10/31(金曜日)】

やいま千思万想(第40回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[「人」が音楽をつくる「音楽」が人をつくる(3)]

 物事を創るには一朝一夕で達成できるものではないですね。
確かにイベント的な集会を企てる時には急ごしらえで作らなければならない時もあるでしょうが、確実に成功させるためには綿密な計画と信頼できるその道に長けた専門家の助けが必要です。
音楽イベントがそうですね。
 特にオーケストラや合唱団作りがそれに当てはまります。
急ごしらえで何とかなることもあるかもしれないのですが、本物を作るには実行可能な計画性と専門的知識による訓練、そして多くの協力者が必要ですし、なんといっても演奏者が互いにアンサンブルするための十分な練習時間を組み入れなければなりません。
協力し、協調しあえる経験を積む時間が絶対に必要なのですね。
それでこそ演奏者も、聴衆も納得できる、感動の音楽が生まれると確信するものです。


 さて、前回まではCちゃんとT美さんの女性メンバーの話でした。
今回は男性のNさん(私はNチャンと呼んでいるのですが)のことを書きましょう。
私の団作りは当初から「女性中心」と決めていました。
女性が中心になると円滑にいくことが多いです。
男性中心になるとどうしても権力闘争や馴れ合い集団になりやすいと思っていました。
確かに、これはこれで堅固な集団にもなるのですが、女性との協和、個性の協調という意味において全体にバランスの良い音楽は望めないのですね。
これは経験による思いです。そういった私のもとに1人の真面目な男性が入団して来ます。
 この時期、大阪教育大学の学生たちが一度に沢山入団して来るのですが彼もその一人でした。
先のT美さんもそうでした。
この人たちが団の推進役になったことは間違いありません。
 ただ、私が少し困ったのはこの学生たち、「先生に成りたい」人たちだったのですね。
真面目、勤勉ですが、堅く、遊びがない(今は柔らかくなりましたが)。
少し頭デッカチ、理屈屋さんですね。
Nチャンも生真面目で堅実派。
突き詰めるタイプでしょう。
舞台人としては少々羽目を外せる方が良いとわたしは思っているのですが、彼はいかなる時にでも生真面目に対応します。
 そうしてある時、歌や生活のことを考え悩み、一年間団を離れるということを起こします。
音楽から離れる覚悟を決めたのです。
その後彼はどうしたか・・・なんと彼は釣り人になります。
そして彼の突き詰める性格でしょう、釣り仲間からは「名人」と呼ばれるほどに名を馳せ、専門誌に掲載されるほどの実力派として有名人になってしまいます。
しかし一年が経って、釣り仲間から非難を受けながら(仲間には音楽は諦めたと言っていたそうですから)彼は戻ってくるのですね。
 音楽に再び戻って来たのですね。
その後の彼は一筋です。
声楽家としての自覚が強固になり、独唱のCDを私のもとでリリースします。
その演奏、実に誠実で音楽を突き詰めようとする姿勢に溢れています。
女性中心で始まった団、今では彼も合唱団を支える大黒柱の一本となりました。 (この項続きます)





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