八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.58


【掲載:2015/07/23(木曜日)】

やいま千思万想(第58回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[さまざまな音世界 音律の話(その4)]

 「平均律」という音律の一種に慣れ親しんだ私たちは「純粋に響く」という体験に乏しいと思います。
ヴァイオリンのような弦楽器を弾く人や金管楽器を吹かれた経験をお持ちの方はきっと「純粋」をご存じだと思うのですが、一般的には「純粋に響く」音を常に聴いているということはないといってよいでしょう。
 「純粋」とは協和、調和された心地良い響きです。是非ともその響きを体験していただきたいものだとの思いでも書いています。

 「ピタゴラス音律」の続きです。
この最初に理論化された音律は純粋に響く5度音程(例えばドとソ)を重ねて作った音階「ドレミファソラシド」でした。
それはモノコードという一弦琴のような楽器(器具)を用いて確かめられ、計算され、作られたものです。
このモノコード、16世紀に至るまで西欧の音律を測定する基準器となって、修道院や大聖堂で歌われるグレゴリオ聖歌に用いられます。
 この音律による歌声(祈り)は、情感に満ち、抑揚豊かで味わい深く、荘厳、かつ崇高で調和の取れた美しさでもって今現在も歌われているものです。
モノコードで作られた「ピタゴラス音律」。この理論は聖歌を歌う為だけでなく西欧文化全体にわたって、社会の規範としても応用されていきます。

 例えば、建築様式がそれです。西欧の大聖堂は上から見ると十字架の形をしているのですが、その全体構造の縦と横の長さの関係は音律で用いられた比率に基づいていますし、装飾の窓やドアもそれに倣って作られています。(調和の象徴でもある音響としてのオクターブ、5度音程、4度音程にあたる比率)
 永遠の調和、それを理想として建立された聖堂の中で、まさに美しく調和と協和の象徴である音楽の響きを反響させる。これこそ、中世が理想としたものだったのですね。
 大切なことなのですが!この5度音程の響きが何と約300年間にわたって歌い続けられることになりました。(5度や4度の音程で並行した声部が重ねられて歌われる「オルガヌム」と呼ばれる様式です)
西欧の文化はこの規範が主流。音楽では5度音程の響きが基本となり、調和、協和の基準として「ピタゴラス音律」の比率が全ての分野に置いて隅々まで用いられることになったのです。

 ここで音律の歴史的流れを一望してみましょう。
ピタゴラス音律 →︎ 純正律 → ミーントーン(中全音律)→ ウェル・テンペラメント(程よく調整された音律)→︎ 平均律
この流れで西欧音楽は歩みを進めてきました。

 さて、オクターブ(8度音程)、5度音程、4度音程に明け暮れていた「ピタゴラス音律」の時代に新しく魅力的な3度音程の響きが加わってくることになります。
この3度を登場させたのは大陸のお隣り、イギリス・アイルランド地方の文化です。ケルト人文化がもたらしたといわれています。
 さてこの時点で、中世が終わり、ルネッサンスの時代到来ということになるのですね。
(この項つづきます)





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