八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.66


【掲載:2015/11/20(木曜日)】

やいま千思万想(第66回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

[さまざまな音世界 音律の話(その12)]

 西欧の音律について解説をしています。
少し重複しながらの文章ですから煩わしさもあるかもしれませんが、いろいろな角度から説明を試みているものですからもう少し拙文にお付き合いをいただければ、と思います。
ピタゴラス音律→純正律→ミーントーン(中全音律)→ウェル・テンペラメント→平均律、と歩んできた音律でした。
前回でミーントーンまで来たのですが、今回はまた全体の流れを俯瞰的(ふかんてき)に眺めてみます。

 音律は言ってみれば、〈にごり〉の歴史です。純正な響から非純正な響へと。
純正音程を人為的にゆがめていく過程なのですが、それはまた純正音響だけの音律では得られない独特の趣をもたらすものでもありました。
 協和するとか、不協和な、という区別はあくまでも聴く側の主観に根ざしたものです。
響きの感覚・嗜好はそれぞれの時代、民族の好みの音程を反映した「あいまい」なもの、と言えるかもしれません。

 「ピタゴラス音律」から「純正律」への移り変わり、そしてその後の修正の流れは必然のことだったと言えましょう。
「純正律」に付かず離れず、鍵盤楽器で純正をなんとか維持させようと調整されながら、転調などの複雑な要求をも満たせる音律が様々に模索されてきました。
ミーントーン(中全音律)もその流れで生まれたものです。
完全な純正であった5度音程の響きを犠牲にして3度音程の純正を保ち、優先させた音律、それが「ミーントーン(中全音律)」でしたね。
5度の響きから3度の響きの好みへの移行、それは甘美な世界への指向だったとも言えます。
1600年頃から1800年代中頃まで200年以上広く用いられていたのもよく理解できることです。

 その後、音律の摸索において更に巧妙に手が加えられ、ウェル・テンペラメント〈良く整えられた音律(整律)〉と呼ばれるものが登場します。
その代表格の作曲家がヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach)〔1685-1750〕ということになります。
ウェル・テンペラメントとは「ピタゴラス音律」とミーントーン(中全音律)の折衷案です。
ミーントーン(中全音律)で犠牲になった5度音程の響きを、再び取り戻すべく置き換えることを目指したもので、具体的にどこの音を置き換えるかによって様々な音律がまた生まれます。
それらの音律をまとめてウェル・テンペラメントと呼んでいるのですね。
代表的なものに「ヴェルクマイスター」「キルンベルガー」「ヤング」などというものがあります。
これらは部分的に音程を調整したものですから、ミーントーンに比べて和音の響きや旋律の感じが調性によって変わるのが大きな特徴です。
 このウェル・テンペラメント、ロマン派の時代を経て20世紀初頭のドビュッシーの時代あたりまで使われることになりました。
そしてその後が現在の「平均律」なんですね。
(この項つづきます)





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