八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.85


【掲載:2016/09/08(木曜日)】

やいま千思万想(第84回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

男たちが集い葛藤する醍醐味とは

 愛すべきおじさん達がいます。40近くから50代の男達です。
家族を支える立派なお父さんたちであり、かつ責任ある社会的な働き手でもあります。
いわゆる強面(こわもて)の役職の方もいます。
その男達が童心に帰ったような顔で真剣に歌っているのです。
時折見せる笑顔は極上で、それはもう〈可愛い〉と言って良いほどの愛らしさです。
そのおじさん達、それは男性たちだけで歌う「男声合唱団」の面々です。
 普段、私が指揮する合唱は男女による「混声合唱団」と女性による「女声合唱団」。
だからでしょうか、時には男性だけの合唱が振りたくなってその仕事を入れます。
男声合唱の特徴は何と言っても、その力強さでしょう。
筋骨隆々たる体を感じさせる声の圧力は、まさに「男」そのものと言っていいです。
歴史的にはこの形態こそ「合唱」の本流とも言えるのですが、近代、一層力強さを強調するサウンドを示すようになってからは一種の特殊なジャンルになりました(日本だけの現象かもしれません)。
そのサウンドには、それはそれは熱狂的なファンがいます。
しかしながら、その特徴である「力強さ」に違和感を持つ人たちも中にはいたりします。
力強さと荒々しさが一緒になり、おまけに〈雑〉さも感じさせてしまう、となればその違和感も納得できるというものです。
 しかしながら近年、「男声合唱」もその歴史の中で変化してきました。
筋骨隆々の声だけでなく、男声特有の抜群のハーモニーと、これまた男声ならではの優しく、そして甘いサウンドを目指しての硬軟両用の表現が立ち現れます。
そのサウンドといったら、もう最高の男声世界です。

今回私が振る合唱団は、名門「同志社大学グリークラブ」のOB(卒業生)で作った「同志社グリークラブOBシンガーズ」。
頼まれて指揮台に立つのですが、それに先立っての練習が実に楽しいものになっています。
確かに、力任せの声圧で攻めてくるところもあるのですが、私が求める柔らかさや声質に対しても実に真摯に応えようとしてくれます。
その時の素直さといったら・・・。素敵なおじさんたちです。愛すべきいい男たちです。
演奏会は9月の中頃なのですが、今から楽しみのステージとなっています。

男声合唱としての魅力はまだまだこれから増していくだろう余白を残していると考えます。
女声合唱や混声合唱に比べて、自然(純正)ハーモニーが作り易いという特質を持っていますし、発声に工夫を施せば硬軟の驚くべき表現力を持つことが可能となります。
その可能性を探る取り組みを重ねていくことで実はもう1つの魅力をも引き出せるかもしれないと思っています。
男性って、私も男なのですが、何事に対しても垣根を作っての男世界に走りがちです。
それが上記のような取り組みの過程の中で、全方向に向かって、繊細かつ優しさと強さを併せ持った開放的な魅力ある人格を生み出していきます。
合唱を通しての〈男磨き〉の道を歩むのです。
これ、男声合唱の醍醐味です。





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