八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.91


【掲載:2016/12/08(木曜日)】

やいま千思万想(第91回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

〈武満徹・音楽創造への旅〉へのお誘い

 今年2016年02月20日に784ページに及ぶ著書が刊行されました。
そのタイトルは「武満徹・音楽創造への旅」。著者は日本のジャーナリストでありノンフィクション作家・評論家の第一人者である「立花隆」。

 日本が誇る、最もエキサイティングな足跡を残した世界的な作曲家、武満徹氏への百時間以上に及ぶロングインタビュー集です。
2月、それは氏が亡くなった月。この月に刊行したのはそれを記念してのことであったと思われますが、私にとってはもう1つの意味が重なります。

 以前にも書きましたが、同じ年の同じ月、奇しくももう一人の偉大な作曲家「柴田南雄」が2日に亡くなっています。享年79歳。そしてその20日に武満徹が亡くなります(享年65歳)。
偉大な「現代音楽作曲家」の二人が同じ年、同じ月に立て続けに亡くなってしまったのです。
私にとっては本当に寂しく、動揺・衝撃を受けた年月として記憶に刻み込まれています。

 著書に話を戻します。
日本を代表する作曲家「武満徹」に立花隆氏がインタビューする形での対談。
過去6年にわたって「文学界」で連載されていたのが一旦完結。それから18年の時を経て蘇っての刊行です。
「武満徹」はクラシック分野の作曲家。一般的にはほとんど知られておらず、一部の現代音楽愛好家や映画音楽好きに知られていたという存在に過ぎませんでした。
しかし、国外では日本を代表する作曲家、特にフランスでは文化勲章その他が授与されるなど極めて高く評価されています。
その落差に「どうして日本ではその芸術性が認められないのだろう」と嘆く人々が多くいました。
私も氏の作品を演奏する者として人となりはある程度は知っていたつもりでしたが、この著書ではこれまで知られていなかったことまで実に赤裸々に語られていて、現代音楽愛好家に限らず、広く音楽に興味ある人々にとっても氏を知る上で必読の書となると言って良いでしょう。時代及び偉大な一人の生涯を見つめるための良書、お薦めです。
 冒頭にも書きましたが、この本、784ページに及ぶ大著。そこでは武満氏の、青春、恋愛、その時代に活躍した時の人との交流、そして創作の秘密が解き明かされています。「ぼくはあの人にだったら、全部しゃべってしまおうと思っているんです」と武満氏に言わしめた立花隆氏の文も実に見事で、「武満徹」の壮絶な生き様がその時代背景と共に生き生きと綴られています。

 目次をピックアップして少し並べておきます。
食糧基地で聞いたシャンソン/映画音楽のこと/「武満作品は音楽以前である」/結核と貧困の時代/死と向き合う日々-「レクイエムの発端」/ヨーロッパ的、日本的/演奏家たちの抵抗/武満と安保闘争/芸術と美を求めて/「ノヴェンバー・ステップス」初日/ぼくの音楽の作り方/音に個性を取り戻せるか/静かに、同時に恍惚に/日本的引き算のアプローチ/いい演奏、悪い演奏。音楽や人となりに興味を持たれている方に読んでいただきたいですね。





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