八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.95


【掲載:2017/02/02(木曜日)】

やいま千思万想(第95回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

音楽の新しい時代の扉を開いたモンテヴェルディ

 世の中には世界的な名曲として一度は聴いておきたい、価値ある作品というのがあるものです。
伝統的、地域的という意味合いだけで無く、世界の人類史という流れの中で聴いておきたいと思う作品です。
 クラシックと呼ばれるジャンルの中にもそういった曲があります。J.S.バッハやベートーヴェン、モーツァルトなどの名曲がそれです(その他、挙げればきりがないほど無数にあります。欧米諸国の知的な想像活動の成果ですね)。
人類史として識っておきたい、人類の知的財産としての価値。今回はその中でもあまり一般的ではない作品、しかし、知っているものにとっては最上、極上の聴く者にも演奏する者にとっても圧倒的な印象を与える曲をご紹介します。
それは今年生誕450年を迎えるイタリアの作曲家、クラウディオ・モンテヴェルディ(Claudio Monteverdi)という作曲家の「聖母マリアの夕べの祈り」。
通常(《ヴェスプロ》と呼ばれている曲です。
その魅力について書いてみようと思います。
彼が生まれた年、それは現在から450年前、といえば、それだけで今日からみれば遠い時代のこと、関係ないと思われがちですが、それがそうではないというところを知って頂く、それが今回書き始めた動機です。
 彼が生まれて活躍した頃、それは人類の歴史の中で中世から近世へと激しい社会的変動が起こった時代。日本では「戦国時代」、桶狭間の戦い後です。

 彼、モンテヴェルディは当時の流行歌(マドリガル)作曲家を目指していました。
今で言うポピュラー、演歌、歌謡曲といった曲づくりでしょうか。
それは当時のパトロン(保護者、庇護者)であったマントヴァ公の要請があっての仕事なのですが、その経験がオペラという歌劇(うたげき)を後に生み出すことになります。
その史上初のオペラを作った者として彼はその名を轟かし、功績によって「新しい時代の扉を開いた」作曲家として音楽史上、いぶし銀のように、しかし異彩を放って輝き続けて今日にいたっています(しかしそれらのことが先にも書いたように、一般的にはイタリアでさえ一部の音楽愛好家を除いては知られてはいないのが残念です)。

 今年がメモリアルイヤーとなるモンテヴェルディの曲は、欧米に限らず日本でも多くの演奏家によってその功績の真価を問うべく紹介されることでしょう。
楽しみです。世界中で演奏される彼の立体的で、創造性豊かな音楽が多くの人々に聴かれ、観られ、体感されていくことが。
私も一年を通じて彼の作品を演奏することを予定していますし、年末には集大成として、名曲《ヴェスプロ》(「聖母マリアの夕べの祈り」)も演奏します。
前書きが長くなっていますが、彼の魅力を知って頂くためには少しその音楽上のこと、楽譜の書法や、その歴史的推移を、このコラムではあまり専門的にならず書き綴っていきたいと思っています。
今回はその第1回目でした。(この項、不定期に続きます)





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