八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.105


【掲載:2017/07/20(木曜日)】

やいま千思万想(第105回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

演奏会場は「愛」にあふれての高揚感につつまれて

 人間の表情って劇的に変わります。
その変わりようが演奏家にとって嬉しくもあり、また悲しいとはいかないけれど落胆となる大事な演奏結果に繋がる要因です。
国によってその表情は様々です。一般的に言えば、日本はあまり表情に出ませんね。
感じることが多々あるのでしょうが、それが直ぐさま表情に表れることは稀です。
イタリアはその点、顔だけでなく、体全体で表そうとします。そして行動に移し多弁に表現しようとします。

 今回の演奏旅行でもそれを体験しました。
とにかく、私から見ればこの国の人たちは「アモーレ(愛)」なんだ!と再認識です。
演奏が始まると恋人同士がまず楽しみます。
そしてその演奏が気に入ればどんどん二人の愛も高まっていくようで、抱擁も始まります。
私などはそれを見て、とても嬉しく、また幸せな気持ちになり、それが演奏への情熱に繋がるんですね。
演奏の良し悪しのバロメーターは「恋人同士に有り」です。
まぁこれがよく目立つんですね。

 さて、演奏会報告の続きです。
フェスティバルへの参加、それは招聘されての演奏とはいえ、最初、充分に私たちの事が知られていたとは思えませんでした。
フェスティバル全体では400名の演奏家が参加、180もの演奏会が組まれています(私たちは期間中4日間で計9回の演奏会〔うち1回は野外〕という過密スケジュール)。
日本からという珍しさはあったかもしれませんが、演奏そのものを知っている人はそう多くはなかったと思われます。
それが初日の2回の演奏を終えた時点で我々の演奏の噂が飛び交ったといいます。
「街中の噂になっている!」とフェスティバルのスタッフが教えてくれました。
同じその日の3回目の演奏では早くもほぼ満席になるのではないか、との入りになったのです。
翌日、2日目の演奏会からは驚く程に聴衆が増え、雰囲気が変わりました。
出だしから音が消えるまで一瞬たりとも聴き逃すまいと感覚を研ぎ澄まして聴いている聴衆、曲を終えるごとに高まる興奮と熱狂、鳴り止まぬスタンディングオーベーション…。人々の満足、驚嘆、それを表す笑顔が忘れられません。
そして街に出れば必ずといってよいほど人々が「Bravissimo!(凄く素晴らしかった)」「Fantastico!(演奏、最高!)」などと口々に声をかけてきます!
通りの向こう側からも拍手が起こっていましたね。
その積極的な行動に驚きつつ最高の幸せ感でした。

私たちのプログラムは多彩です。
本場での伝統的なミサ、モテトという宗教曲、世俗曲のマドリガーレ、そして時代は近づいて近代や現代音楽。その中には日本の作品も含まれます。
2回目の演奏での日本人の作品、そして3日目に演奏した私の拙作でも涙ぐむ聴衆がいたと聞きます。
言葉(言語)を超えて「音楽」そのもので心を通わせたとの確信です。
3日目の夜は初めての野外での演奏。
そのカスティリオーニ広場での様子がまた凄かったのです。
(つづきます)





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