八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.110


【掲載:2017/10/05(木曜日)】

やいま千思万想(第110回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

暮らしの中には楽器が豊富

 音楽の歴史は歌から始まったのか?それとも叩いて音を出す「打楽器」から始まったのか?
これはなかなか難しい問題ではありますが、一考に値します。
歴史を遡(さかのぼ)ってみれば、人間は音楽、つまり歌と様々な楽器の協演で日々の暮らしを豊かにしてきました。今日はその楽器について少し書いてみようと思います。

 先ず、我々がよく知っている楽器といえば、それは学校で習う西洋のオーケストラに用いられている楽器です。
大きくは1)弦楽器、2)木管楽器、3)金管楽器、4)打楽器の四つに分けられ、そしてそれぞれのグループには大きさ、材質、音の出し方によって様々な楽器の種類があります。まぁ、代表的なものとして弦楽器はヴァイオリン、木管楽器はクラリネット、金管楽器はトランペット、そして打楽器は太鼓やティンパニーというふうにイメージできるでしょう。
詳しく言えばもっと沢山の楽器がその中に含まれるのですが、ちょっとここでは割愛することにして、〈楽器〉にも興味深い歴史、形や響きの流れがあるということを考えてみたいのです。

 1500年代後半あたりから急激に人間の声、すなわち歌に変わって楽器が台頭してきます。
それまでは歌の影となって目立たなかったものが自立し、それ自身を主張し始めたわけです。
現代では花形であり、楽器の女王様と例えられるヴァイオリンも然(しか)り。
古くはあまりイメージの良くない(下品な)楽器として扱われていました。
大道芸人が踊るための伴奏に用いられていたからです。
しかし、人々は新しく魅力に満ちた響きを求めていました。時代が楽器など〈機械装置〉に価値を見出した時代でもあったのです。一気に楽器はその精度、演奏技巧において進化し始めます。
人間の耳は貪欲に新しいもの、美しい響き、多様な響きを求めたのです。

 今年、生誕450年を迎えたクラウディオ・モンテヴェルディの《ヴェスプロ》と呼ばれる名曲の紹介を書いてきましたが、その中で用いられる楽器がその進化を象徴するかのような饗宴を繰り広げます。
名前の羅列になってしまいますが、以下の様な楽器が並びます。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ヴィオローネ(現代のコントラバス)、コルネット(現代のトランペットなのですが、当時は全く別の楽器ツィンク〈独〉)、サクバット(現代のトロンボーン)、フルート、リコーダー、リュート、ハープ、そしてチェンバロ。知った名前を見つけられたと思うのですが、現在の楽器とは別物、その音色が違います。
大きさや使われる材質が異なり、いわゆる現代楽器と比べてみればより優しさ、艶やかさを持っていました。

 歴史は、大きく、強く、均質の音を求めて進化したという価値観の変化を、古い楽器を再現することによって私たちは知ることになります。
古い楽器は〈人間臭い〉というのでしょうか、人の暮らしの雰囲気、人間らしさを感じる楽器だった、そう言って良いと思います。
この続きは次回です。





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