八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.114


【掲載:2017/11/30(木曜日)】

やいま千思万想(第114回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

畏敬の人の背中を見て生きる

 私の人生に影響を与えた人、言葉は沢山あります。
中学時代の国語の女性教師の話された「当間くんの文章は自分を反省しすぎますね」という言葉。
そして担任の男性教師による、「任せるから一人でやってごらん」という言葉。それは学校での午後の休憩時にマイクを持ち、運動場の真ん中に集まってくる生徒を、歌をうたってリードすることでした。
自由で、大らかに生きていた、そんな時代だったのですね。
私にとっての「反面教師」にも出会いました。
ここでは書くのを控えますが、それらの経験が否応無しに、私の物事に対する「批判の目」を育ててくれたのかもしれません。

 人間というものに嫌気がさした時代がありました。
高校時代ですね。しかしそこで出会った音楽教師は〈ねじ曲がろうとしていた私〉を真っ直ぐにし、「一生の仕事を決めた」出会いとなりました。
私の人生はそこから始まったと言っていいでしょう。
そして、最も重要な出会いが大学時代に訪れました。
その影響は強く、今も尚、生きる確信を得、また勇気をも与え続けられている、私が畏敬してやまない「人」との出会いです。
その人を知ったのは一冊の著書。悩んでいた心に響きました。納得ができました。今までの生き方への疑問が晴れました。
喜び勇んだ私は周りの人にそのことを伝えます。応えは意外なもの、「それを読んではいけません。問題があります」と。

 その時から私は著者を追います。
関連書を更に読みます。噂も積極的に聞きます。
内容に同感しどんどん惹かれていきます。避けるようにとアドバイスした人と著者、二人の人生を見比べはじめます。
私に影響を与えた著者は、周りの批判を恐れず、阿(おもね)ることなく〈我が道〉を貫き学問をし続けた方です。
その姿勢に私は心打たれ、真の慰めを与えられたのでした。
その人の偉業が受賞しました。
そのことで更に多くの人々に読まれるだろう本たちに祝福を、との思いです。

 いつしか、その方とは互いに知ることになるのですが、親しくお付き合いをするという関係にはありません。(大事な方だからこそ親しくしないのですね)
しかしながら、私が還暦を迎えた日の記念の集会にはビデオレターを頂きました。
また、演奏会にもお越しくださっていますし、その際の感想、〈当間さんは背中でも指揮するのですね〉は今もって私のお気に入りの言葉です。
我々の演奏を聴いて、今度は我々のために訳詞もしてくださることになっています。
唯一と言っても過言ではなく、私が学者として敬意を払う著者、その「人」の名は「田川建三」。
文献批判に立脚した新約聖書学の伝統の上で、キリスト教批判や宗教批判、そして現代社会批判を展開する著述家です。
今回、大著でありまた偉業でもある『新約聖書 訳と註』(全7巻8冊)が第71回毎日出版文化賞の受賞となりました。
「神を信じないクリスチャン」を名乗るとの記事もあります。
世の中、こういう「人」もいるのですね。
私が見続けている「人」のお一人です。





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