八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.115


【掲載:2017/12/28(木曜日)】

やいま千思万想(第115回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

気持ちを顕(あらわ)にしてくれる詩画の世界

 今年を顧みて、様々な事件があったことを思い出します。心が重くなる事が多かったと私は振り返ります。
随分時が経つのですが、ある時ある人から一冊の本を手渡されました。
「是非、見て下さい」とその人は言います。
見終わって「何と美しく、そして詳細に描き出された花たちだろう」と感動しました。
その本には画だけでなく、短い詩も添えられています。それにも感動しました。
優しい眼差しで対象を見ています。
その著者は目線が上からでなく同位置か下からの視点です。
障がい者となった彼の目線は我々と異なっています。
多くの人が彼の絵に励まされ、魅了され、癒されています。

 星野富弘が描く〈花の詩画集〉。最新刊の「足で歩いた頃のこと」(2017年6月出版)を見開いて思いました。
著書の記述によれば「1946年群馬県に生まれ、1970年中学校教諭時代のクラブ活動の指導中に頸椎を損傷、手足の自由を失う。
首から下が動かなくなりその後9年間入院。
入院中から筆を口にくわえ、四季折々の花の絵と詩を描き始める。
著者の生み出す〈花の詩画〉は、時として困難の中にいる読者に、大きな勇気を与え続けている」
「1979年、最初の作品展。1991年、村立富弘美術館開館。2005年、新富弘美術館開館。詩画や随筆は教科書にも掲載、詩は作曲されて多くの人に歌われている。現在も創作を続けながら全国「花の詩画展」を開く」と続きます。

 画は本当に美しい!ハッとするような色彩感と細やかに描かれた花々のなんと見事にその生命力を映し出していることか。
ただ、その画だけでも人の心を強く打つのに添えられている詩に私は心が震え、揺さぶられ、その視点に感動します。
第一集から氏の詩画集を見続けているのですが、今回はこれまでに比べ、美しさに加えて力強さが加わったように感じます。
ただ美しいだけでなくそのものの存在感、花が持つ荒々しい生命力としてのエネルギーがこれまで以上に現れていると思います。
例えばザクロの詩画、「悲しい日の夕焼けは赤い、ザクロも夕日の色、それを食ってしまおう」
(詩、そのものではありません。ぜひ出版された詩画集をご覧になってください)その遠近感と立体感に、私は痛いほど心をえぐられます。
シメジも描かれます。
そこに綴られた詩は踊っているようにも、うごめいているようにも見えるのですが、なぜかそのページから受ける印象は「秋の静かな夜」です。
そのページの左側には「乳茸(チタケ)も描かれます。
その立体感(臨場感)と量感は圧巻、人間と植物の命がゴーゴーと脈打ちながら強く大きく流れる力感に溢れています。

 最初は障がい者が口にくわえた筆によって描く美しさ、巧みさへの興味から人々は注目し始めたのかもしれません。
しかし、その内容は年々深さを増し、美しさだけではない、ものの本質を全体として深いところから描いていると私は感じます。
お勧めしたい本の一つです。





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