八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.122


【掲載:2018/03/22(木曜日)】

やいま千思万想(第122回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

満開の「桜」と共に「人」も息吹を解き放つ

 この時期、盛んに草花が芽吹き、自らの息吹を誇ります。眩しいほどの光景です。
陽光は威光を示して刺すように、そしてまた命の恵みを膨(ふく)よかに注ぎ込んできます。
一年中で、それまで眠っていた全てのものが蠢(うごめ)き、輝き、
天に向かってそそり立つような堂々の姿を表す、それが本土の春という感動の季節です。

 春先に休暇を頂いて旅行に出かけるのが恒例になっています。
それまでの一年間の疲れを癒し、来たる活動にエネルギーを与えるための休養として二週間から三週間ほどの期間で時間を過ごします。
今年はサクラ前線に合わせるかのように自宅の近くから北上する旅をしました。
その感動は私にはこれまでになかった経験です。
昨日まで固く閉ざしていた芽が、翌日には顔を覗かせようとの柔らかな動きとなり、そしてそのまた翌日には驚くほどの速さで花を咲かせる。
その動きは圧倒されるほどの力強さです。
満開のサクラは怖いほどのエネルギーを発し、見る者の心に痛いほどの感動、衝撃を与えます。
この「咲き誇り」を見ようと外国からの人々も驚くほど大挙して押し寄せている、とニュースは報じます。
日本独特の誇るべき美しさなのでしょう。

 訪れた街はまずは「姫路」。世界遺産・国宝「姫路城」です。
この城は別名「白鷺城(しらさぎじょう、はくろじょう)」とも呼ばれる美しい姿をした堂々の名城。そのサクラから始めました。
晴天に恵まれて出かけた時はまだ蕾(つぼみ)。
しかし、直ぐにでも〈開花するぞ〉との思いを感じる力強さを持った蕾です。
城を約2時間ほど巡って戻ってくれば今にも開かんとするもののように見えました。
残念ながらそこまでの花見ではあったのですが、1日置いて出掛けた街、琵琶湖の東側にある古い歴史の街「彦根」と「近江八幡」には眼を見張るほどに満開となったサクラの木が立ち並び、息を飲むような美しい花を咲かせて堀川の両側に並木道として絶景を作っています。
観光客も溢れ、お土産店も飲食店も、そして創作に満ちた工芸品を作る店や装飾店などが立ち並び、観光客は行列、あるいは入れ替わりの激しさを見せて賑わっていました。
まさに、民族移動するかのごとき列島はこの季節に轟々(ごうごう)と音を出して人がうごめいています。

 歴史的景観を持つこれらの街並みは住む人たちに愛され、誇りを持って保存されているのが見て取れます。
国や県や市が運営しているようですが、先ずはそこに住む人たちが率先して保存に協力しているように感じました。
タクシーの運転手さんと話をするのが好きな私ですが、その会話にも接客にも表れます。
私が利用したタクシーでは言葉遣いは丁寧、そして街についての説明が押し付けがましくなく的確です。
同行した連れが乗ったもう一台のタクシーでのこと。
「この信号機、長いのでメーター止めますね」と言って再三メーターを切ったというのです。当たり前のようにして。
花も人も、とっても輝いている季節だと感じました。





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