八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.124


【掲載:2018/05/03(木曜日)】

やいま千思万想(第124回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

この世で一番尊敬されるべきは「創作」する「人」

 「創作」というテーマは時折取り上げるのですが、私にとって大事なキーワードです。
今度35枚目のCDを出版するのですが、そのライナーノーツの文章を抜粋して転載、その想いを知って頂ければと思います。

 『我が国の多くの作曲家の中からお一人に焦点をあてて、全集としてCD制作をし続ける。
それには確かに勇気を必要としましたが、そのことの意味は大きいとの確信をもって決断を下しました。
作曲家と共に作品を作り上げていく。それは音楽家としても、また一人の人間としても、とてもわくわくする魅力あること。
この世で一番尊敬されるべきは「創作」する「人」です。
その「人」と生み出される「作品」に尊敬、畏敬の念をもって向き合う喜び。そこから全てが始まっています。
この関係、指揮者としては作品について作曲家ご自身から意図などを拝聴することができますし、演奏に対するご意見も伺えます。
これまでのCDでの演奏はそれらの記録で有る、と言えます。
しかし告白するのですが、作曲家と演奏家の共同作業というと、恵まれた融和な意味合いを感じさせるかもしれないのですが、私は当初からある姿勢を貫いてきています。
西洋音楽の流れを汲む音楽の大きな特徴は「楽譜」です。
作曲家は楽譜を記し、演奏家はその楽譜を読み解いて演奏する。脈々と受け継がれ、進化してきた楽譜。
その楽譜を通じて音楽をどのように構築していくか?
演奏が、いかに人と人とを強く結ぶ手段と成り得るか?そこに私は身を置きたいと考えています。
単純な楽譜だから未熟、複雑な楽譜だから円熟・成熟であるとは言い切れません。
単純なものにこそ書き記せない深さ、根源的なものが含まれているとも言えます。
また、多くの言葉や記号が記され、複雑で難解な書法が「音楽」として偉大で卓越な作品に成り得るということにもなりません。
「楽譜」を通して作曲家、演奏家、聴衆という三者が繋がる、それが西洋音楽が持つ最大の特徴であり、また限界です。その「楽譜」に人間としての「魂」を注ぎ込みたい!
私の心を揺り動かす作品を全身全霊をかけて表現し、聴いて頂く方々に問い、共感を得たいと願う。
それが私の指揮者としてのスタンス、作品(楽譜)に対する視点の基準です。
それは作曲家と対峙する姿でもありましょう。
しかしそこに生じる信頼に根ざした緊張感にこそ音楽の喜びと生命の息吹を感じるのです。』

 一人の作曲家、「千原英喜」を通して音楽と演奏について問い続ける《千原英喜作品全集》第10巻のリリースです。
多くの方々の要望に支えられての発刊となりました。
何かを、何もないところから生み出す。
これは凄いことだと思うのです。「創作」とはそういう行為です。
作品が活き活きとその生命を現す。
生み出す者も、活かす者も、また蘇(よみがえ)らせる者も、人としての大切な行為です。
「創作」する人を敬愛します。これは私の基本姿勢であり、人としての目標でもあります。





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