八重山毎日新聞社コラム

「やいま千思万想」No.125


【掲載:2018/05/18(金曜日)】

やいま千思万想(第125回)

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一

伝説の昔話の地を巡る旅

 私が住む大阪は兵庫県、京都府、奈良県、和歌山県に囲まれています。
そしてそれぞれの地には全国的に有名な名所旧跡が沢山あります。
しかし自分が住んでいる所の近くにはなかなか足を運ぶ機会がありません。
仕事ならいざ知らず、観光や散策となると他県から訪れる人たちの方が圧倒的に多い筈です。
ここのところ、時間を見つけてはその近場で私がまだ訪れたことのない所へ出掛けることが多くなりました。
行ってみれば、それが意外に感動を生み出す場所であったりして、想像していたものとは違って驚きます。
「何故今まで訪れなかったのだ」と悔やまれること頻(しき)りです。
今回はその中でも印象の強かった和歌山県に行ったときのことを書きます。

 その地は大阪から電車で2時間ほどかかる御坊というところ。
全国的にも有名で世界遺産として登録されている「熊野古道」にも位置する市。
でも、その「古道」を歩くために行ったわけではありません。
隣接している日高郡(ひだかぐん)日高町(ひだかちょう)にある「道成寺(どうじょうじ)」を訪れました。
寺の歴史は古く、創建されたのは8世紀(寺伝では701年)。
国宝や重要文化財に指定されている建物や仏像などがある由緒あるお寺さんなのですが、
そのお参りに行ったわけではなく(話は回りくどいですね)、
そこに伝わる古い話「安珍・清姫伝説」の地を巡る一環として訪れました。
それは能や歌舞伎、演劇の演目としても有名な話です。

 「昔話」って面白いですね。
古くなればなるほど空想などではなく、実際に起こった出来事のように感じられて私は好きですね。
きっとそれは真なる民族的なものも含んでいるからではないかと思います。
そしてその話は伝えられる度に筋や内容などが変化して、幾つもの異なった話が出来てしまいます。
原型を留めないほどの形になってしまうことさえあります。
この変化を追って色々想像を巡らせるのもまた楽しいものです。
「安珍・清姫伝説」の話です。幾つかの伝承が残っているのですが、とっても簡単にまとめてしまえば以下のような筋です。

 「熊野詣(もうで)」で訪れた東北地方の修行僧、安珍(あんちん)が常宿としていた館(やかた)の娘(清姫)と結婚の口約束をします。
しかし、僧はその約束を果たさず逃げ回る始末。
ついに怒った娘は蛇と化して僧が逃げ込んだ道成寺まで追いかけ、鐘の中に隠れていた安珍を焼き殺してしまうという話(ホント簡単にまとめすぎましたね)。
いやいや、とんでもない結末の話です。
娘(女)からみたものと、僧(男)からみたものとは感じ方に違いはあるかもしれませんが、女の「情念」「執念」「悲哀」「悲恋」といったテーマとしてはドラマ性たっぷりの内容です。
ですから伝承として多くの人々の心を掴んできたのでしょう。
何故私にとってこの話なのか?実は今年の秋に演奏するオペラの主題がこの「安珍・清姫伝説」なのです。
その地を訪れて益々「情念」が湧いてきた私です。





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