八重山日報コラム
西表島でカヤックを初めて漕いだ日、それが「さがり花」(サワフジ〈沢藤〉、モウカバナ〈舞香花〉)を初めて見た日でもありました。
【掲載:2013/06/09】
音楽旅歩き 第6回
「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者 当間修一
[一晩で散るサガリ花、鎮魂のイメージ]
川面に流れ漂う花々と、マングローブ林の甘い香りの強烈さを今も忘れることができません。
さがり花の幻想的な美しさ、それがガイドさんの「夕方咲いて、一晩で散るのです」との説明でますます印象付けられ、以後私の脳に深く刻まれた貴重な体験です。
それは私が慶田城用紀さんの「さがり花」の歌を聴き編曲したいと思うずっと前の出来事でした。
さがり花、6月から8月にかけて、日没とともに芳香(ほうこう)を放って開き始め、夜9時頃から全開、暗闇の中で花を咲かせる、これは見せるためではありませんね。
虫たち(蛾)を呼び寄せているわけです。そして夜明けとともに花びらを散らす。その妖艶な姿、一種独特のエネルギー溢れる中の危うさと儚(はかな)さに妙に心が疼(うず)きます。
さがり花を歌った曲が他にもあるようです。
探せばさらに数が増えるかもしれません。
花の美しさ、情景とともに魅力を歌ったもの。
恋心を映したもの。
抒情的にあるいはテンポ良くリズムに乗せて。
しかし、私が初めて聴いた曲は平和への祈り、鎮魂を歌っていました。
それが慶田城用紀さんの曲だったのですね。
トツトツと素朴ながら切々と歌っているその曲を一度聴いただけで直ぐに合唱曲として編曲したいと思いました。
私の祈りも重ねたいと思ったのでしょう。
人は祈ることで人との結びつきを確認し強めることができます。
熱い夏が近づいて来ました。
私たちはこの時期、祈らずにはおれない重い歴史を持っています。
さがり花もきっとその中で密やかにそれらの光景を見ていたに違いありません。
開花のとき、夕方から少しずつ花開き、漆黒の真夜中に賑わしく満開となり、夜明けと共にひとひらひとひら散っていく花々。
その全行程を私の心象の中で痛く感じたいと、この時期強く思うのです。