八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.11


【掲載:2013/08/18】

音楽旅歩き 第11回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

[バッハの「ロ短調ミサ曲」、ちっぽけな祈りを世界へ]

 私が持つ団では、夏期に集中して練習できるように寝泊まりする合宿なるものを行います。
一年間を通じてその合宿が何度かあるのですが、夏の合宿は長く、そして遠方へと場所を移します。
今年は大阪から静岡県伊豆へと五泊六日間の練習移動です。
 楽しみは練習だけではありません。
温泉と食べ物とお酒でしょう。
練習で何故お酒かは知る人ぞ知る時間帯です。
要するにコミュニケーションということで。

 今年のメインの練習曲は人類が生み出した、音楽史上最高峰に挙げられている曲。
この曲、西洋クラシック音楽史に於ける最高傑作というだけでなく、ヨーロッパ文化の核心(数学、修辞学、宗教学など)の粋を究めたとも評されます。
 その曲とは、今から260年前に作曲されたドイツの作曲家、J.S.バッハによって作曲された「ロ短調ミサ」。
不思議なことに、作曲者はこの曲を聴くこと無く亡くなりました。
 そしてその目的も特定できないでいます。
つまりこの曲、謎に包まれているわけです。しかしハッキリとは解らないけれど、本人にとってとても大切な曲、そしてダイイング・メッセージでもありました。
どのようなメッセージであったか?

 彼の理想を込めた作品なのですね。
時代としての枠はあったものの、日常生活に大きな影響を与えていた宗教上の問題。
それらを超えた理想、融合・和解・平和への希求になっていたのではないか、と私は解します。
詳しくはここでは説明できないのですが、テキストの解釈、曲の作り方、そしてバッハが置かれていた立場がそれを暗示しています。
 この現代にあって私は私の祈願とも合わせてこの曲を是非演奏したいと思いました。
 その為の合宿でもあったのですね。
平和を希求する者は、自身が平和的でなければなりません。
演奏する者同士が心打ち解けて声を合わさなければなりません。
権力闘争いや、妬み、憎み、憤りなどを超えての慈しみや感謝を唱える協和のハーモニーを奏でなければなりません。

 合宿中の真夜中、皆は外へ出て満点の夜空を見上げ、ペルセウス座流星群を見ていました。
その光景は心静かに念じる協和者の面持ち。
大宇宙のエネルギー、その鼓動とも思える動きが小さな私たちの心に大きな希望と、共に生きる感謝を与えてくれているように思えた私です。
その時同じくして、今年も私たちの国にとって祈願しなければならない暑い日が訪れました。
激動の時として、人の心の異常に熱い日々となって。
 今から260年前、音楽の偉人バッハが理想の像、思いを打ち立てたバッハ「ロ短調ミサ曲」。
ちっぽけな祈願かもしれないのですが、その思い、世界に向けて放とうと思っています。





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