八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.46


【掲載:2014/12/20】

音楽旅歩き 第46回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

[バッハの音楽を聴いてみませんか?(2)]

 さて、バッハが作曲した曲の薦めを始めます。
彼の作品の特徴はポリフォニー〔polyphony〕(複数の独立した声部からなる音楽様式)ということになるのですが、それを楽しむとはいくつものメロディーを同時に聴き取り、その全体(メロディーとリズム、そしてその重なりのハーモニー)を統合する喜びです。
 手始めにオルガン曲「フーガ ト短調『小フーガ』BWV 578」をご紹介します。
オルガンのことは前回にも書いていますが、両手、両足を使ってそれぞれに別々のメロディーを奏する楽器でしたね。
この楽器で最低四役(四人奏者)を一人で演奏するわけです。

 最初にお薦めするこの曲は沢山あるバッハの作品から比較的メロディーが聴きやすく、演奏時間も短く(約4分)、よくまとまっている曲として最適かと思います。
〈小〉ですから〈大〉も実はあって、「幻想曲とフーガ BWV 542」がそれです。
しかし、先ずはこの〈小〉の曲からです。
 短い主題が積み重なって、追いかけの音楽を紡ぎます。
フーガは「遁走曲」と訳されているのですが、逃げ出すこととは言い得て妙、追いつ追われつのイメージです。
先ずはこの曲で主題のメロディーの追いかけを目指します。
一体何度この主題が繰り返されるか?結構面白いですよ。

 これに慣れてくれば次の曲は一気にハードルを上げます。と書くと後込みされそうですが、実は音楽的には最も充実感を味わえるばかりでなく、脳の活性化、あるいは知的な刺激が確実に起こり得る名曲です。
 「数」の究極の楽しみ方でしょうか。その名曲とは「音楽の捧げ物(Musikalisches Opfer)BWV1079」です。BWVとはバッハを聴く際に必ず出て来るもので、「バッハ作品総目録番号(独: Bach-Werke-Verzeichnis)」の頭文字をとっています。
 「音楽の捧げ物」はバッハが1747年5月、フリードリヒ大王(フリードリヒ2世〔プロイセン王〕)の宮廷を訪ねた際、王から与えられたテーマによって演奏されたものと、その場で叶わなかった演奏を2ヶ月後に仕上げて献呈された作品です。
その中身は凄い!ということなのですが、先ずはこの中から「6声のリチェルカーレ」をお薦めします。
また新しい言葉リチェルカーレが出てきました。
この言葉「フーガ」の古い呼び名です。
バッハはこの言葉を大王に恭(うやうや)しく用いているのですね。
鍵盤楽器で演奏されることもあるのですが、複数の楽器の合奏で演奏されているものをお聴きになるとより素晴らしさが体験できると思います。

 それからもし可能ならばインターネットのYouTube(ユーチューブ)で「蟹のカノン(Crab Canon)」を検索してみてください。驚きの音楽が聴けるはずです。
疲れた身体を静寂の一刻に置き、聴く。染みわたって体の力みが取れ、それと反対に頭が冴え渡ってくる、それがバッハの音楽なのです。
(この項つづきます)





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