八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.47


【掲載:2015/01/15】

音楽旅歩き 第47回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

バッハの音楽を聴いてみませんか?(3)

 年が明け、新たな思いを持って今年も「旅歩き」の歩を進めたいと願っています。
前回に続きバッハの魅力をもう少し書きましょう。
バッハに限らず、音楽というものは音の水平思考と垂直思考を楽しむものだと思うのですが、バッハの音楽はそれが凝縮された、それも最高級の音楽だということになります。
 バッハの音楽はポリフォニー(複数の独立した声部からなる音楽様式)だと書きました。
そのポリフォニーは水平的にはメロディーを追うことの楽しみであり、またそれらのメロディーが幾層にも重なって垂直的にハーモニーを作りだし、そしてそれらによる全体の流れを楽しむことがバッハ音楽を聴く鑑賞の仕方だということになります。

 同時に二つ以上のことを処理している脳。脳のフル活用です。
ところで、音楽の基礎能力で大切なものは何だと思われますか。
それは記憶力なんですね。
たった今聴いたメロディーやリズムをどれだけ覚えていられるかなんです。
とはいっても、それらを楽譜に書き留める能力ではありません。
書く能力はもっと高度な訓練が必要となるもので専門的教育が必要となります。
書くことではなく、聞き覚えがどのぐらいできるかということ、どの位長いメロディーを記憶できるか、それもどれほど記憶し続けられるか、が大切な能力ということです。
 「聴き取る」とは難しい作業です。正確に、それも内容も的確に聞き取れるようになるためにはそれ相応の力量が必要でしょう。
会話の例をとれば解りやすいでしょうか。
相手の話を正しく聞き分け、それを人に伝えることの何と難しいことか。
あの人はこう言った、と思っていることでも本人に後で確認を取ると「そのようなことでは無かった」「言ってない」「逆に伝わっている」なんてことは結構頻繁に起こり得ます。
 音楽もそうだと言えます。聞き間違い、思い込みなど頻繁です。
メロディーを正確にとはいっても、音の高さ(ピッチですね。ピアノのどのキーから始まっているか)となってくるとこれはもうまた高度の専門的訓練が必要となるものなのですが、一応ここでの能力とは曖昧ながらも復唱できること、としておきましょう。
この後追いできる能力をバッハの音楽によって培うことができるわけです。
そこにプラスして、彼の音楽は人間の喜怒哀楽や深い思索の世界を覗かせてくれるのですから、音楽としても、音の宇宙的とも言える音響世界を楽しめないわけはありません。
 彼のポリフォニー音楽を聴きながら、器楽的で歌うのは難しいかもしれませんが(音の高低が激しく、また息継ぎがないほどの長さです)、それでも彼の素晴らしい歌の世界を口ずさむ喜びを知って頂きたいと思う私です。

 バッハの音楽、それは人類が生み出した最大最高の遺産です。
その遺産に近づいていけば誰もが見ることも、体験することもできるのですからもう少し先に歩を進めて彼の世界をご案内したいと思います。
(この項つづきます)





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