八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.48


【掲載:2015/02/06】

音楽旅歩き 第48回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

バッハの音楽を聴いてみませんか?(4)

 人にはデジタル的人間とアナログ的人間がいるらしいです。
音楽を好む人はアナログ的な人だと思われているかもしれませんね。
数字で推し量るよりは感情的で数値であらわせないものを好んでいるのだと。
 しかし、作曲をしたり演奏することはほぼ間違いなくデジタルだと思います。
すなわち数字の世界、数値の世界なのですね。
ですから古代ギリシャ時代のピタゴラスは音楽ではなく数学、あるいは物理学の研究結果として「音階」を作りました。
音楽は「数学・物理学」だったのですね。

 そして後世、音楽が発展開花し、その極致に到達したのが私がここに紹介しようとするヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach)1685-1750というわけです。
これまでに彼のオルガン曲『小フーガ』BWV 578と器楽曲「音楽の捧げ物(Musikalisches Opfer)BWV1079」をまずお薦めしました。

 今回は鍵盤曲の《ゴルトベルク変奏曲》(アリアと30の変奏曲)BWV988を紹介します。
この曲、有名な逸話、エピソードが付いています。『ある伯爵がバッハに会いに行くのに、彼のお抱え演奏者である14歳の若き音楽家(ヨハン・ゴットリープ・ゴルトベルク)をお供させ、そのゴルトベルクのためにも、また伯爵自身の寝入りの音楽としても(不眠症の悩み解消の目的として)、バッハに曲を所望した』という話です。
 この話の真偽はまだ不確かなこととして研究者の間では確定していないのですが、良く出来た話で先ず第一曲目のアリアは確かに子守歌にも成り得る雰囲気を持っていることは間違いありません。
ただそれ以降の曲は眠れるどころか目が覚めるような曲が続いています。
ですから全曲が「睡眠用」に書かれたものでないことは容易に想像のつくことです。
そのアリア以降の曲たちが何と実に素晴らしい音楽であることか。
それも数学的な極致で!(このことも解説は省きますが、幾つも重なった数の妙味が見て取れます。聴いて、ではなく見て取るという、楽譜と照らし合わせての感動です)
バッハの死後に名付けられた通称としての《ゴルトベルク変奏曲》。
原題は「アリアと30の変奏曲」と付けられ(実はもう少し長い名前ですがここでは省きます)、全曲32曲の大作です(最初と最初に同じアリアが演奏され演奏によってはおよそ40分から50分の演奏時間)。

 変奏曲とはある主題のメロディーを様々に変容させていく楽曲なのですが、聴く側からすれば〈聴きやすい〉部類の音楽です。
ただ、この曲は良く聞こえてくるメロディーに対してではなく、低音の隠れたメロディーに対して変容が行われているところが特徴なんですね。
しかし、そのような仕組みなど気になさらずに全曲をお聴きになることを強くお薦めします。
きっと頭の中に新しい何ものかが息づくことになると思いますね。





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