八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.58


【掲載:2015/08/09(日)】

音楽旅歩き 第58回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【人の暮らしは響きの歴史(その4)】

 この社会では様々な仕事、そしてそこに働く個性に溢れる人々がいます。
学問の世界にもコツコツと一途に研究している方がいらっしゃる。その研究はどう考えても直ぐには利用できない、お金に結びつかない、一般には無駄な事のように映ってしまっているものもあります。
 最近読んだのですが、「ハトはなぜ首を振って歩くのか」ということに真剣に取り組んでいらっしゃる先生。その本を読んでみると実にくだらなそうな問題でも、なかなか奥深く実に面白い。様々な分野まで広がりを見せるテーマだったりしたのですね。
 音の世界でも驚くような研究があって、これからの生活に必要なものとして実用化が期待されるものもあります。その研究とは「騒音のない社会を音響技術で実現したい」というもの。
 私も騒音のことは関心深く、日々考えさせられるテーマです。 昨今、騒音が一層増しているような気がしているのですが、もし「騒音のない社会」が実現できればどんなに心安らかに過ごす事ができるか。実用化してほしいものです。街の喧騒、車内の雑音、どこを向いても騒音ばかりという都会にはこの耳のストレスを解消する研究は必要だと思いますね。

 どのような研究かといえば、音によって音を消す。とか、ある場所だけにしか聞こえないというスピーカーとか。
 音によって音を消すというのは、ある音を別の音で覆い隠すというもの。
ある音(騒音)の周波数と近い別の音を流すと音が消えるという現象(マスキング現象といいます)を利用します。これを使えば喫茶店や人の多く集まる場所でのひそひそ話、また空調や換気扇の不快音を消すことができるというのです。例えば、大災害時での沢山の人々が集まる体育館、そのような避難所生活における生活音対策として役立つのではないかと思われています。

 また、ある場所だけにしか聞こえない研究というのは、超音波スピーカーを利用するようで、個々のスピーカーの前に立っても音は聞こえないが、音波が重なる場所だけは本来の音が復元されて聞こえるというもの。
 例えば展覧会で、ある特定の絵の前に立った人だけに聞こえる音声ガイドというものもできますし、広告を表示する電子ディスプレーの前を通るときだけ宣伝音声が聞こえるということもできます。
いいですね、このシステム。限られた場所に音を届ける音響システムの早い実現を望みたいです。様々なシーンで活躍しそうですね。

 「響き」のことを書いているのですが、時には「響き」を消す、ということも考えてみるのも良いかもしれません。美しい音、心地良い音も消してみる。もちろん不快な音や暴力的な騒音も消してみる。(不快音や騒音は外からやって来るものですから消すことも、逃げることもそう容易くはないかもしれませんが) そうしてみると意外に自分自身の「響き」に気がつくかも知れないです。心臓の音、お腹がキュッと鳴っている音など・・・。
(この項続きます)





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