八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.59


【掲載:2015/08/30(日)】

音楽旅歩き 第59回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【人の暮らしは響きの歴史(その5)】

 響きについて綴っています。
「美しい響き」と言う言葉を私はよく使っているのですが、書く度にこの言葉は曖昧だと思ってしまいます。人によって「美しい」という感じ方は異なります。ある人は好ましく美しいと感じても、ある人は不快に感じることもあります。数値に表すことができれば少しは整理することもできるのですが、この「美しい」という感じ方は数値化がまだできていないというのが現状です。
 音には「大きさ」「高さ」「音色」という三要素があります。
「大きさ」と「高さ」は数値化できるものの、美しさということに深く関わっている「音色」という要素は、音の「大きさ」「高さ」の組み合わせ、またその時間的な変動も加わりますからその評価は個々に異なることになり、また無限に存在することにもなります。
 大きさや高さを一つに限定できることとは大きな違いがある「音色」です。
数値化できない「音色」が含まれる三要素、それが絡み合い、主観的な聴き方、心理的感覚も加わっての「美しい響き」という表現、その良し悪しという評価が曖昧になってしまうのは仕方の無いことかも知れません。

 音を評価する言葉ってどのようなものがあるのでしょう?
静か↔騒がしい、低い↔高い、落ち着いた↔鋭い、滑らか↔粗(あら)い、力強い↔弱い、きれいな↔濁った、軽い↔重い、柔らかい↔硬い、快い↔不快、調和的↔耳障り、太い↔金属的(細く硬い)、残響あり↔残響無し、といった言葉でしょうか。
 これは本当に多種多彩です。そして言葉の持つ意味も人によってまちまちだとすれば、真に言葉で表現することの限界を感じないわけにはいきません。

 もう一つ私が音に関してこだわっている事柄があります。音のことを書くとき、常に気になっていることです。
それは音として聞こえる範囲、つまり「可聴域」です。
 これは人によって聞こえている音は同じではなく、聞こえていない音も有り、また聞こえ方も異なることがあるということですね。
 最近は知られるようになりましたが、成人に聞こえる音は約20ヘルツから2万ヘルツ。そのなかで4千ヘルツ前後(ピアノの音で言えば真ん中のドから3オクターブ上のソ前後)の音に対して一番感度が良く、小さい音でもよく聞こえる(少ないエネルギーで効率的に聴かせられる)というもの。そのため、この音が目覚まし時計のアラームや警告音として用いられるのですね。(実際には幾つかの周波数の組み合わせで用いられていますが)

 一口に「響き」と言うものの、これは奥が深く、難しい問題を多く含むのですね。
しかし、この難しい問題が実は人間を取り巻く環境ととても深く関わっており、興味が尽きません。
 「響き」を聴き、感じるということは自分自身を含めた世界全体を味わうことと同じではないか、そう思います。
では聴き取ることのできない音に関してはどうでしょう?これは次回に書きます。
(この項続きます)





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