八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.69


【掲載:2016/02/01(月)】

音楽旅歩き 第69回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【人の暮らしは響きの歴史(その14)】

 今回は演奏会場となるホールの響きについて書いてみます。
と言ってはみても、演奏する場所はホールだけとは限っていませんね。路上ライブもあれば、ライブハウス、レストラン、喫茶店と、最近では演奏する場所はいろいろと広がっています。
 しかし、ここでの話はクラシック音楽専用ホールでの話です。マイクを使わない生声(なまごえ)、生音(なまおと)での演奏。アコースティック(電気を使用しない)を前提とした音響重視の音楽ホールのこと。聴衆にはホールの反響板(ステージや客席を取り囲む壁)によって生まれた、そのナチュラルな響を楽しんでもらおうとする場所での話です。

 演奏会の当日はこの響づくりとの闘いから始まります。
どの場所で演奏するのが最良なのか?ステージ上での「位置決め」が行われます。
具体的に言えば、後方が良いか、前方(客席近く)が良いか。それは何十センチの感覚でとらえていく細かな調整。
合唱団の場合は立つ位置の高さも大きな問題となります。天井との距離が響き作りに大きな影響を及ぼすからです。ひな壇(だん)の組み方からその上に立つ位置まで、何度も試してみることも少なくありません。
電気を使わずホールを〈鳴らす〉ためにはここでの作業は必須です。

実は最近、後悔を残した合唱団の演奏会がありました。
この響きの調整に失敗しました。その会場は長年演奏しつづけてきているステージ。
ステージも客席も可動式でどのようにも形が作れ、音響も天井につり下げられた反響板によって変えられるという音楽ホールです。
スタッフの方々とも信頼関係が続いていて、私が出すCD制作のための録音会場にもなっています。
その慣れと思い込みが後悔の要因となりました。今回、ある演奏仕様のため会場の形を変えることにしたのですが、その結果、音響にちぐはぐが生じてしまったようなのです。
それは、指揮する私と合唱団の位置関係はいつも通りの感覚だったのですが、どうも客席での音響が良くないとの客席にいたスタッフからの報告です。
どうしてだろうと首をひねりながらのリハが続き、時間切れとなって本番となってしまいました。
実は後になって思い及んだのですが、それはこれまでの設定と異なってステージが50センチ低くなっていたこと、そしてこれが響きを変えた一番の要因だったと思われるのですが、ステージの高さにともなって客席の階段の傾斜も低くなっていたということなのですね。

 天井の吊り反響板の高さが調整されていたかどうかは定かではないのですが、これまで通りであったなら、客席で響きが変わったように聴こえてしまっても当然だと思われます。
ステージ上と客席の音響が異なっていた可能性があるのですね。

 演奏家にとってホールの響きがいかに重要か。
そのために演奏家はホールの響きと格闘です。
細心の注意を図って前後左右、高低、数十センチを決定するために何度も試行し、決定していくのですね。
(この項続きます)





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