八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.70


【掲載:2016/02/17(水)】

音楽旅歩き 第70回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【人の暮らしは響きの歴史(その15)】

 前回は演奏会場となるホールの響きについて、体験的な事情を書きました。
今回は、このホールの響きの補足として、一般的に言われている「良い響きが聴ける座席」について書いてみます。
とはいえ、音楽専用ホールには大きく分けて、アリーナ型、シューボックス型(箱形)、扇形とあり、またそれらのホール特有の個々の事情に依った響きもあって、一言で括(くく)ることは難しいと言えます。しかしながら、基本的な傾向はありますのでそれをご紹介します。

 客席は幾筋かの通路に挟まれたブロック(区画)となっていることが多いですね。
席を選ぶ場合、ステージに向かって前方、中程、そして後方と大まかに区分し、聴衆はそれぞれに「ベストシート」として選んだいずれかの席に座ります。ベストな条件とは音響を考えてのことであったり、奏者の演奏がよく見えるという視覚を考えてのことであったりします。
一番良い席とは、音響的にも、そして視覚的にも良い席ということになるのですが、この二つの条件、これがそう容易(たやす)くは一致しないというのが現実です。
しかし、確かにその席はあります。経験的に言わせていただくならばその席が確かにあるのですね。残念ながらご存知の方は少数ですが。

 では、例としてシューボックス型の小ホール(400席規模)で見てみることにしましょう。
縦長の3列ブロック、客席が通路を挟んで並んでいるとします。
普通は真ん中のブロックが良いと思われています。それも視覚派はそのブロックの前の方で、音響派はそのブロックの中央から後ろの方に席を取ろうとするようです。
しかし、機器などを使って量ってみると、視覚の面は別として、音響的にはこの真ん中の列ブロック全体、あまりよろしくありません。
反射音が少なくなり、また特定の音が聞こえてくるというバランスの良くない音響となることが知られています。
良い座席とは?それは、左側ブロックと右側ブロックであり、その中でも座席は中央ブロックに近い方が良いということになります。
  すなわち、一番良い座席としての結論は、ステージに向かって左側ブロック前方寄り座席、あるいは右側ブロック前方寄り座席が良いことになります。
では、両サイドブロックの後方はどうでしょう。
それは響きの乏しい「多目的ホール」での鑑賞には良い座席だと言えます。
実はここにはよく評論家と言われる方々が座ります。
この場所、視覚的には良くないのですが、声や楽器の直接音はあまり聞こえて来ないもののホールの反射音レベルが上昇して豊かな響きを聴くことができるのです。

 最初にも書きましたが、これは一般論としては確かなことだと思うのですが、実際には各ホール特有の特徴によって座席の場所も異なります。
良い響きを聞くことのできるベストシートを決める。
それは最終的には聴衆一人一人の音に対する感性、音響の志向に拠る、ということになりますね。
(この項続きます)





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