八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.75


【掲載:2016/05/01(日)】

音楽旅歩き 第75回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【人の暮らしは響きの歴史(その19)】

 ちょっと面白い本を見つけて読みました。人間が発する声について、興味深い事が書いてあったのですね。今回はその中から「思わず出てしまう声」、についてご紹介したいと思います。
 声とは人と人とをつなぐ音、響き、だとこれまでも書いてきました。
人の内側と外側をつなぐ音、コミュニケーションとしての、人が「人間」となるための重要な機能の一つだと。
声とは、受けとめてくれる他の誰かの存在をいつも求めているということなのですね。
誰かの内部から発せられた声を、私たちは聴覚を通じて受け取り、その響きの中に発した者の思いを聴き取ろうとし、それに応えようとするのですね。
 では、意に反して「思わず出てしまう声」とは?
聴き手を求めていない声、ということでしょうか。
それは、くしゃみ、咳、しゃっくり、「あっ」と叫んでしまう声、あくび、などですね。
それはまた自身ではコントロールがきかない、思い通りにならない声でもあります。
どうしてこれらの声が起こるか?それは何かの刺激によって生理的に反応する声で、「出す」のではなく、「出てしまう」声です。
 例えば「しゃっくり」をとりあげましょうか。
これは横隔膜のけいれんによって引き起こされるものなのですが、医学用語では吃逆(きつぎゃく)と呼ばれるもの。
現在の医学でもまだ詳細は解っていないみたいですが、普通はあまり心配しなくていいもの。
しかし、なかなか止まらないこともあって困りますね。有名な話だそうですが、海外では68年間も止まらなかった例があるそうです。(まぁこれは例外中の例外でしょう)
 しゃっくりのメカニズムはというと、「暴飲暴食、早食いや一気飲み、香辛料、アルコールを摂取、大笑いする、急に大きい声、あるいは高い声を出す、または驚かされた時などに起こり、脳の延髄から横隔膜と吸気肋間筋に対して、筋肉をちぢませる信号が”急に”発信。
すると、肺内に急激に空気が吸い込まれ、それとほぼ同時に声門が突然閉まってしまい、『ひっく!』という音が出る」ということのようです。特殊な響きでしょう。
 さて、今度は「くしゃみ」。
くしゃみが何故起こるかの詳細なメカニズムも完全には明らかになっていないのですが、一つは体温を上げるための、そしてもう一つは鼻腔内のほこりや異物を体外に排出するためだと言われています。
くしゃみが出たとき、昔の人たちは「くさめ」(くしゃみの語源ともいわれます)という一種の呪文を唱えたそうです。
これは人間の魂が離脱する、逃げていく、ですから早死にするとの不安から言い放った言葉。意味は「くそくらえ」、です!
このくしゃみ、他の国々ではその「ハックション」(「ハクシュン」「ヘックシ」「ヘクチッ」など)を聞いたとき「神の祝福がありますように」とか「生きている!」と言い、そしてそれに応えて本人は、「ありがとう!」と言うそうです。
ことばを伴わない特別の意味をもつ「声」、ということですね。
(この項続きます)





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