八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.94


【掲載:2017/03/26(日)】

音楽旅歩き 第94回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【富山でのJ.S.バッハロ短調ミサ演奏会】

 先日の3月12日、以前にも書きましたJ.S.バッハロ短調ミサ(全曲)演奏会を富山県で行いました。
富山県での演奏史に新たなる1頁を記せたのではないかと思います。
この大曲、地方での演奏はなかなか困難な問題です。バッハ愛好家は聴衆も、演奏者も、大曲である「ロ短調ミサ」を聴きたい、奏したいと願いながら色々と解決しなければならない事柄が多いということでもあります。
まずは何と言っても曲が難しい!
 まぁ少しぐらいは「歌えます」「奏せます」との実力では到底及ばないほどの技巧を要求されますし、演奏時間が全体で二時間に及びますから集中力と体力も必要となります。
いかにクラシック音楽界の「金字塔」、世界遺産的な名曲だと欧米諸国、そして日本の愛好家に絶賛されていてもそう容易くは演奏できない事情があります。
この曲を演奏しようと思えば、オーケストラと合唱、そして独唱者との共演となりますからそれぞれをどのように調達するかという問題があります。
 アマチュアのオーケストラや合唱団、独唱者という選択もあるのですが、先にも書きましたようにどれも最高度のテクニックを必要としますから、おいそれと演奏できるはずもありません。結論的に言えば、この曲は専門的訓練を経た合唱とオーケストラとで成り立つ、ということになります。
 しかしです。この人類にとって偉大な遺産である名曲を歌いたい、奏したいと思い、なんとしても演奏したいと願うアマチュア合唱団があるのは地方文化の育成という意味でも大きな意義があると考えます。
そのアマチュア合唱団がプロと一緒になって演奏する。今日よくあるベートーヴェン「第九」の演奏会のようにです。

 富山県で活動する「バッハアンサンブル富山」がその計画を立てました。
指揮は私にと約一年程前に依頼。演奏者については合唱団はアマチュア、ソリストはプロ、そしてオーケストラはプロとアマチュアの混合で、ということでした。
前にも書きましたようにこれは大きな意義を感じる、そう思ってお引き受けしました。
 当日のホールには千人近い聴衆。(新聞での報道)
合唱団は頑張りましたね。
練習期間は一年をかけて、との私の要望は残念ながら予算の問題、私の多忙スケジュールと合唱団側のスケジュール調整、そして突然の私自身の入院といった事情が絡み合って充分には叶いませんでしたが、それでも少ない練習ながらも一回一回の積み重ねと、そして急遽加えた幾人かのエキストラを含む約90名のメンバーによった感動の熱の入った演奏となりました。
 オーケストラのプロのメンバーからも「長い演奏歴の中で、実は初めての演奏でした」とか、「そう何度も演奏できる機会に恵まれない曲、良い経験になりました」等の話を演奏後のレセプションで聴くことができたことは嬉しかったですね。
「今日の記念的演奏は当間さんにしかできない全てをまとめた素晴らしい演奏会だった」との音楽関係者の評。
その夜、仲間と交わしたお酒が美味しかったです。





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