八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.97


【掲載:2017/05/21(日)】

音楽旅歩き 第97回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【やはり人間は「旅」が必要です】

 入院中は時間をもてあましていました。
一時間が経つのがなんと遅いことか。普段では思いもよらなかった時間感覚です。
自宅に居るときにはあっという間の一時間、いや一日でした。
もっと時間があれば、あれも、これもできるのにと思っていたものが、入院中では時間を見ては「まだ一時間も経っていない!これから寝るまでに何と長い時間が控えていることか」などと思いを巡らせて途方にくれていたものです。
 本を読むこともできず、考える事と言えば体の事ばかり。
そして厄介なことに、眠ることを待っているのに、私には夜寝られないという問題があったことにまた気付きました。
これは相当のストレスとなっていましたね。
普段から眠りの時間が短かったのですから、入院してから早くから寝ても、十分に睡眠が取れるという訳にはいきません。
おまけに点滴のために体を自由に動かせないとの不自由さもあって眠りは浅い。ほとほと困ったものでした。
時折、それを打ち消そうとして元気になったときの事を想像しながら、スケジュールに添って練習、演奏会、その他の仕事をこなしていく算段も考えていましたが、なかなかそちらの楽しい時間は短め。
現実には不自由さゆえに不安感が襲って来ることが多かったです。
しかし、努めてこれまでに出掛けていった様々な土地での楽しい様子を思い出すべく、ぐるぐると頭を巡らせるようにしていました。退屈しのぎの楽しさを求めてですね。

 「旅」って本当に必要だなぁ、と改めて思いました。
観る世界が狭ければそれだけ〈幸福感〉も狭くなるような気がします。
先ず、旅で観た景観は文化の多様性に気付かせてくれます。
そして出会った人たちの会話には様々な価値観、人生があると、本当に心からの感動を覚えるものです。
その土地の歴史も知るでしょう、でも、そこで生きている生の人間像を知ることで歴史観もまた違ってきます。
 時間は長いようで短い。その短い中での経験というか、詰まったものというか、これまで知らなかった世界を知ることの重要さ。
国であれ、都道府県であれ、市であれ、村であれ、住んでいる人、それぞれに人生があるのですね。
地球に住むそれぞれの人々に人生がある、ということですね。
束ねられ、括られていい人生ってないのですね。
一人一人の人生がある!その人生に触れることができるのが、囲まれた世界に閉じこもっての生活を少し離れた「旅」ではないかと思うのです。
「旅」に出る、そして積極的に文化、そして人と接してみて、それまでの自身の世界に無かったものに触れて、何かを感じることでより新しいことを生みだしていく、そうあるべきなんだと改めて思いました。
現実には退院をして間もない私にはもう少し時間が必要だと思うのですが、元気になればまた「旅」に出掛けたいと思います。と書きつつ、実は今月の末から来月の初めにかけてイタリアでのミュージックフェスティバル。
イタリアはマントヴァに招かれての演奏です。
良い出会いにしたいと考えています。





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