八重山日報コラム

「音楽旅歩き」No.98


【掲載:2017/06/18(日)】

音楽旅歩き 第98回

「大阪コレギウム・ムジクム」主宰 指揮者  当間修一

【イタリア・マントヴァを訪れての演奏】

 「マントヴァ室内楽フェスティバル」からの招聘による演奏のため、5月31日から6月4日までの期間イタリアを訪れました。
「マントヴァ」という街(人口約5万人。イタリア共和国ロンバルディア州南東部にある都市で、マントヴァ県の県都)は日本では知名度が低いかもしれませんが世界文化遺産にも登録されている歴史的に価値ある街ですし、ウィリアム・シェイクスピア作の悲劇『ロミオとジュリエット』の中に登場する街として、そしてヴェルディ作曲のオペラ「リゴレット」の舞台にもなっている<知る人ぞ知る>街です。
 私にとってはバロック音楽の大家クラウディオ・モンテヴェルディがその生涯の中でも重要な作品を書いたとされる街としてどうしても訪れたいと思っていた場所でした。
合唱団は7年前にも演奏地として訪れているのですが、今回は「第5回マントヴァ室内楽フェスティバル」からの招聘によって再度訪れる機会を得ての演奏です。

 海外での演奏の楽しみは、やはり観客の反応にあります。
それは顕著に表情や、拍手に現れます。イタリア人気質ということでしょうか、体全体で表す明るさと熱狂的なその反応は私たち演奏者の気持ちを乗せるに十分です。
 4日間に9回演奏するというハードなスケジュール(各回の演奏時間は30分ほどと決まっていたのですが、アンコールもあったりして少し時間も伸びていきます)、一回一回に見せる聴衆の反応によって我々の演奏も熱くなり、演奏会は毎回スタンディングオベーション(立ちながらの拍手喝采)が続きました。

 そういった演奏内容が街中に口コミで広がって評判になっていったそうです。回を重ねるごとに聴衆が増えていきます。
私たちが会場とホテル、あるいは食事へと移動する時など、通りの向こう側から拍手が起こったり、見知らぬ人が近づいて来て握手を求められたり、演奏に対する称賛の言葉を頂いたりしましたから実感はありました。
フェスティバル最終日の我々の演奏会は、満席、立ち見も出る大盛況です。
演奏し終わった後も観客は帰ろうとせず、総立ち。再びアンコールを求めるという状況でした。
 演奏会は文化交流の場でもありますから、モンテヴェルディの作品は勿論のこと、日本人の作曲家による曲も併せて演奏しました。
曲の内容がどれほど伝わるだろうかとの思いもありましたが、音楽はやはり世界共通語として務めを果たしてくれたと思います。
演奏に対しては歌詞をイタリア語に翻訳して演奏前に朗読を加えたりしました。が、そうは言っても一語一句言葉の意味が伝わるということは難しいこと。
しかし、聴衆は涙して聴いて頂いたのです。それは驚きと共に人間としての相通じる喜怒哀楽の共通性の喜びを大いに感じた瞬間でもありました。
この小さな文化遺産の街が、フェスティバルの期間、音に溢れて賑わいました。
その一端を担ったという誇りを持っての帰国となったのですが、次回はイタリア人たちとのエピソードを少し書いてみます。





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