No.166 '98/8/25

(オプショナル・ツアー) ヴェネツィア(前編)


ドイツでの前半の2つの演奏会(ブルク、ベルリン)が終わって、2日の中休みがありました。
次の報告(ラテナウ、レニン、ポツダムでの3つの演奏会)に移る前に是非とも報告を先にしたいことがあるんです。
それは全旅行に通じる重要なことだと私には思われるんです。

何故私たちがヨーロッパに演奏しに行くのか?
それは「聴いていただけるから」、ただそれだけだからです。
聴衆の意志表示があり、コミュニケーションを感じるからなのです。
今回もドイツでの5つの演奏会全てにそのことを確認しました。
しかし、オプショナルとして訪れたイタリアでの体験はそれ以上だったのです。

元団員であり、今は現地の旅行会社に努めるサブリナ。
彼女との再会はこんどの旅行の中でも一番の楽しみでした。
彼女は我々のイタリア滞在中ずっと案内をしてくれただけではなく、一生の思い出となるであろうことを我々にプレゼントしてくれたのです。
ヴェネツィアは昨年に続いて二度目。今回は異なった都市にしようかとも迷ったのですが、サブリナに合うということが理由で二度目の再訪問となりました。
ドイツでの演奏も終え、我々の気持ちは軽く、そして何かを期待していたことは確かです。その期待とは・・・・・、食べ、飲み、歌い、そして大いに楽しむことです。
第一日目の夜。やはりやってしまいました。

ビールにワイン、美味しいパスタ。そして歌うんです。町の真ん中でです。
食事も進み、皆のウズウズし始めた頃、サブリナが店の人に歌っていいかどうか聞いてくれるんです。どこでもそうでしたが、最初は「まぁいいですよ」といった返事だそうです。ところが歌い出すと先ずこの店の人たちが聴いてくれるんですよ。そしてどこから集まってくるのか、周りは人だかり。一曲終わる度に拍手が起こります。もちろん嫌な顔をして逃げ去る人もいたかもしれませんが(これは誰も見ていません)、結構カップルなどは私たちの歌を利用して抱き合ってキスしたりし始めます。
歌い終わるとしばらくそこにいるのですが、歌わないとわかるとまた何処へと去って行くんです。
これ私大好きなんですね。誰も止めろとは怒鳴らないですね。(でも遅い時間ですから私たちもちょっと気を使って2、3曲で止めますが)

こうして始まったイタリアの最初の夜でした。
夜が明けた2日目。
サブリナの「それぞれの響きを確かめたいですか?」といった何気ない会話。それがその後とんどもないことになるとは・・・、私も、そして仲間も誰もその時は想像できませんでした。

上の写真は街角で歌っている男声たちです。サブリナが「ここの一角が響きがいいかもしれません」といったからです。通りかかる人も立ち止まり聴き入ります。最初は躊躇していた彼らも歌い始めるといい顔になっていましたね。

この教会はサブリナお奨めの教会でした。昔は沢山人も訪れていたそうですが、観光ルートから外れたため余り訪れる人も少なくなったとサブリナは嘆いていました。大理石で建てられ、こじんまりとはしていますがとても美しい教会です。サブリナはそこでも担当者に掛け合って歌をうたう許可を取ってくれたのです。それはともて、とても美しい響きがしました。

そしてです。この後何とモンテヴェルディのお墓があるフラーリ教会で歌い、そしてあのサン・マルコ大聖堂で歌ってしまったのです。
皆が憧れの両聖堂で歌ったのです。残念ながら写真はありません。写真撮影が禁止されているからという理由もありますが、正直そんな余裕などありませんでした。
特にサン・マルコ大聖堂での歌は信じられないことです。皆さん信じていただけますか?
ひっきりなしに観光客が訪れています。外では長蛇の列が並んでいます。「まさか」です、緊張気味で近づいてきたサブリナの「OK」は一瞬冗談かと思ったくらいです。サブリナは担当者に一体何を言ったのでしょう。(これは結局詳しく聴きませんでした。とにかく彼女は「この人たちは特別な人たちなんです」と言っただけだというのですが。)
祭壇の前に並んで発した第一声。これは感激でしたね。
歌い終わると、聴き入ってくれていた人たちから多くの握手を求められ、そして話しかけられました。中には涙を浮かべて握手を求めてきた方もおられたようです。
警備やチケットの係りの人たちも我々を囲んで聴いていただいていました。
この情景どうしたら皆さんに伝えられるでしょう。
ここでの演奏は2,3日は評判となっていたそうです。しかしその評判、実は他にも理由があるんです。

'98/8/25「(オプショナル・ツアー)ヴェネツィア」この項続きます。