No.330 '00/10/18

柴田作品の楽しさ(トリプティークの解説も含みます)


今回の演奏会、正直に言って聴衆の動員が危ぶまれました。
これ程までににチケットの動きが鈍い演奏会は最近なかったのではないでしょうか。

演奏会にいち早く反応を見せてくれたのは他県の方々や、東京の音楽評論家の方々でした。
しかし、地元大阪での反応は今一つでした。
一般的にはまだまだ知られていない「柴田」であり、「その作品」なんですね。
演奏会がウイークデーの木曜日ということもあって、いつも来ていただく愛好家の方々も来ていただけないようで、個々の幾人の方々からは「残念だ」ということも聴いております。
しかし、繰り返すようですが大阪では一般的に反応が今一つでした。

既成概念を打ち破っての「音楽の楽しさ」を伝えてくれる柴田作品をもっと知って頂けたならば、と今更ながら思ってしまいます。
一度経験をされるとその魅力の虜になられる方も多いのですが、なかなか初めの取っ掛かりが難しいようです。
幾人かの方からの指摘を受けたのですが、こんどのチラシも「なんか難しそう」と敬遠されていたそうです。
「チラシのイメージ作りも大切だ、と教えられました」と担当者が言っていました。

柴田のシアター・ピースはCDや解説書ではその魅力は伝えられません。
その会場に来て、体感して頂かなくては伝わらないのですね。
客席を含めた、ホール全体がステージとなります。
ホール全体を使って柴田の作品を響きわたらせるわけです。また、その響きの中に「日本人としてのアイデンティティ」の確認も含まれるものですから、その強烈な印象は並のものではありません。
今回の作品のように「愛」と「死」というものを通して、「生」の喜び、哀しみ、「生」そのものを問うといった内容では「難しさ」が先入観によって先行しがちです。
しかし、これほど楽しく、面白いものはないと思います。
今回の舞台、10代から80代の世代が一同に会します。このような「生の存在感」も体験できるわけです。
それぞれが柴田作品を通して人間を表現し、アピールします。
演ずる者と聴衆とが一体となって響きを作り上げていくわけです。
是非ともその空間を共に味わっていただければ、と願っています。

アンサンブルが演奏する曲解説がプログラムから外れてしまいました。
ご参考にしていただくため、以下に掲載させていただきます。

芥川也寸志
1925年(大正14年)東京生まれ、1989年(平成元年)東京没。
作家芥川龍之介の三男。長兄は俳優・演出家の芥川比呂志。
東京音楽学校(現東京芸術大学音楽学部)を1949年(昭和24年)卒業。
同年、<交響管弦楽のための音楽>がNHKの懸賞募集作品の特賞を得、一躍華々しく楽壇へのデビューを飾った。
同作品はアメリカ合衆国内で200回以上演奏された。
1953年、同世代の團伊玖磨、黛敏郎と「三人の会」を結成。翌年、同会の第一回発表会に<シンフォニア>(後に改作して<交響曲第一番>)を作曲。
インドのエローラ石窟寺院の巨大な建築や神秘的な仏教彫刻に感化されて書かれた<エローラ交響曲>などの主要作品の他、映画音楽でも活躍した。

<弦楽のための3楽章>「トリプティーク」
1953年作曲。同年、クルト・ヴェス指揮ニューヨーク・フィルによって初演。
二楽章で用いられている楽器を叩く奏法、そして三楽章の祭り太鼓のリズムなどは日本の伝統音楽を想わせるものがある。
全曲にわたって緻密な書法で書かれ、多々ある弦楽作品の中にあっても独特の魅力を放っている逸品である。

No.330 '00/10/18「柴田作品の楽しさ(トリプティークの解説も含みます)」終わり