No.377 '01/8/1

宝塚国際室内合唱コンクールの感想(2)


さて、コンクールでの個別の感想を書いてみます。

総体的に言って皆さん技術的なことは向上されていました。
かえって、そのことによって評価をつけるのは難しかったです。
<甲乙付け難かった>というのが正直な感想です。

一位から三位〜四位ぐらいまでははっきりとしたものがあるのですが、それ以後はほとんど差がありません。
したがって順位はあまり意味のないことだと私の採点表を見て思います。
つまり、最下位につけた団体と六位や七位といった団体とは殆ど差がないということですね。
この辺りでは聴いている時の私のちょっとした精神的動揺や体調、私の趣味、嗜好に振り回されるといったことがあるかもしれないのです。
審査というのは難しいものです。

さて、印象深かった団体です。

やはり総合一位を受賞した「オックスフォード大学スコラ・カントールム(Schola Cantorum of Oxford)」ですね。
現役の大学生です。歌い始めで出の不揃いがあったものの、歌い進めていくうちに緻密さが増し、ハーモニーも安定していきます。こういったところに伝統の強さを感じます。
バスの声量の豊かさには驚かされました。ソプラノの声も芯がありながら真っ直ぐな、それでいて柔らかい響きです。
指揮者は自ら声を出しての<音取り>。しかしながら棒のテクニックはもう少し。
二日目の演奏会では、練習不足からか不安定なところも露顕、ソロの部分もそつなくこなすものの危うさもありましたね。
でも、彼らたちの体、大きかったですね。ホールの舞台がさらに小さく見えてしまいます。この体の違いが「声」の違いとなって現れれてくるのですかね。

次が総合二位を受賞した女声合唱の「カンティクム・メル(Canticum Meru)」。ベネズエラから来た楽しい合唱団。
リズムが何と言っても素晴らしい、民族性の強い歌でした。こういった選曲、実はコンクールといった場所では少し困惑しますね。
でも、ストイックな演奏が多い中で、動きの多い、色彩豊かな演奏を聴いてしまうとやはり評価が高くなるものです。
二日目の演奏会ではさらにエスカレートして、楽器の音に加えてドラムも入り、踊りも加わりました。
職場合唱団らしいのですが、ひとつ間違うと余興的コーラスともなりうる雰囲気の中、ハーモニーや曲の仕上げが丁寧なんですね。
つまり「合唱音楽」として聴かせる部分がしっかりと出来ていたんです。これが評価の高かった要因ではなかったかと思います。

総合三位に京都の混声合唱団「Ensemble Vine」が入りました。
響きも明るく、ハーモニーも安定、声部間のバランスも良く、ダイナミクスも十分でした。
まず、<聴かせる演奏をした>、ということでしょうか。なかなか好感の持てる演奏ではありました。
これからの展開に期待します。もし、アドバイスがあるとすれば選曲でしょうか。偏りのない、出来ればその中でもポリシーが感じられる多彩な選曲になればいいですね。

今回審査するポイントを決めて臨みました。
それは「発声」です。一言で言えば、高倍音を含む発声かどうかが基準です。
まだまだ「暗く」「重たく」響きの「低い」発声が聴かれました。
これでは倍音構成で作られたヨーロッパの伝統音楽とは響きが変わってしまいます。
「声の当たる場所」が皆さん低いのですね。鼻下か口に当たっていることが多いです。
理想はやはり、鼻上から頭頂までの間、額の真ん中が中心ですね。これでないと純粋倍音が発揮しにくいのです。
第一声を聴いて、その意識、そして志向を感じないところは評価を低い点から始めました。
逆に、それらが出来ているところ(といっても、今回はせいぜい鼻および鼻上が限界でしたね)、志向が感じられた団体は初めから私の評価を高いところに置きました。

私が好感を持った団体名です。

●「アンサンブル・ベル」:(モンテヴェルディ、なかなか良かったですよ。各声部2名づつというのもいいですね。感心しました)
●金賞を受賞した「<EST>シンガーズ」:(幾分響きが被さってはいるのですが、ハーモニーは上質です。演奏もアンサンブル力が強く安定したものでした)
●男声合唱団「FREIE KUNST」:(やわらかい響きで素敵でした。男声の響きもここまできたか、と少し嬉しくなって聴かせていただきました。)
●男声合唱団「Chor Spirytus」:(少し<グリー>の響きを感じさせるのですが、これも男声の響きですね。印象に残ったのはテナー。なかなか素質に恵まれたテナーです。それが全体の中で目立っていましたよ(良くない意味ではありません。念のため)
●女声合唱団「ヴォーチ・アミーケ」:(りっぱな響きでした。音楽も聴き応えがありました。女声合唱での上位に入られたと思います。ただ私は少し低い評価になりました。(すみません)
その要因は過度と感じる歌い回し(ポルタメントも含みます)と、テンポ・ルバートの多用に私が少し過剰の拒否感がでました。これはあくまでも私の音楽観から出ているものです。ちょっと採点時に悩みました。)
●女声合唱団「プラバ・ミューズコール」:(もう少し音楽を楽しむ要素も含まれれば良い響きになったと思うのですが・・・・・)
●女声合唱団「エフェメール」:(私は良かったと思いましたよ。団の開放的な雰囲気が好きです。それが音楽にも表れていたと思います)
●女声合唱団「The Owlets」:(高音にもう少し工夫が欲しいところですが。日本語の語感に良いものを聴きました。)
●女声合唱団「アコール<EST>」:(このコンクールで多くの受賞をしている団体だけあって安定した演奏。団員の皆さん仲がいいのでしょうね。巧いアンサンブルでした)
●女声合唱団「コール・カンナ」:(もう少しといったところもあるのですが、向かっている指向に良いものを感じました。あと、声の立ち上がりば明瞭になりばいいですね)
●女声合唱団「Ensemble Daffodil」;(この演奏私気に入ったんです。私だけ二位に入れました。(私だけ突出してました。(笑)曲の構成が良かったですね。1曲目から3曲目へと向かって音楽を頂点へと向かわせます。なかなかの演出です。そしてスタイルに合わせてアーティキュレーションも変えていきます。私、もう少し評価されてもいいかなと思ったのですが。)

ちょっとびっくりした団を。
「??!」といったほうがいいですね。

●男声合唱団「ソフィア・ヴォイス・アンサンブル」:(皆さんアゴを上げて歌われるんです。その姿勢で高音まで上がります(!)響きは胸に落ちています。しかし、それで高音を出されるんですね。私、しばらく茫然と見てました。
あれで良く声がひっくり返らないものだなぁと感心し、また「どうなっているんだろう」と真剣に考え始めていましたよ(笑))

私なりの感想を書きました。
もし、これを読まれて<物言い>を持たれましたら、また疑問、質問等がありましたら遠慮なくメールを頂ければと思います。
少し時間をいただく場合もあるかもしれませんが、答えさせていただきます。
疲れた二日間ではありましたが、聴き終わっては<楽しかった>時間でした。
皆様、ご苦労様でした。お疲れさまでした。
これからも合唱音楽を楽しんでいただければ嬉しいです。

No.377 '01/8/1「宝塚国際室内合唱コンクールの感想(2)」終わり