No.479 '03/1/21

オルガン界への痛論?


「おやおや、ついに此処へも来たか」と思わせる本を読みました。
その切り込み方や論の進め方の甘さに少し苛立ちを感じながら読むのですが、パイプオルガンというまだまだ馴染みの薄い世界のことを政治と絡めて問題にしているということで面白かったです。
ただ、出てくる方々のお名前を少なからず知っている私としてはちょっと心傷む内容ではありました。

草野 厚さんという方が書かれた「癒しの楽器パイプオルガンと政治」<文春新書 298>という本です。

オルガンが<癒しの楽器>とは私には思えませんが(笑)、とにかくパイプオルガン界の今まであまり知られていなかった部分に焦点を当てていることはオルガン界にとっても、また愛好家にとっても良いことかもしれません。
権力、利益誘導、既得権益などと関係があるのでは、と批判的に書かれたその内容はその真偽も含めてもっと議論されてよいことのように私には思われました。

オルガンという楽器選びに関しては、その専門性、そして名を成す演奏家の経験や音楽的志向が深く関わっていることですからその選考法に難しさが付きまとうことは確か。
歴史の浅いオルガン界ではその点、試行錯誤がもう少しかかるのかも知れません。
それにしても、重鎮となられたH氏やバッハのカンタータ演奏によって我が国のバッハ演奏者としての第一人者と成られたS氏の名前がやり玉にあげられているのには驚きました。 『日本オルガニスト協会』についても言及されているのですが、その特徴といいますか、閉鎖性を指摘しているのも、「おやおや、ついに此処へも来たか」という感ですね。
我が国ではまだまだ広く知れ渡っているとは言い難い「オルガン界」。
オルガンを識って貰いたい、一人でも多くオルガンという楽器に接して(触れて)貰いたいと思っている私には「ウン、ウン」と頷きながら読む部分でした。

「クラシック音楽もあぶない! 典雅な響きの裏に利権と税金の浪費が」

と本のオビに書かれているのはちょっと笑ってしまいますが(これは今に始まったわけではないと思いますね。ちょっと想像を豊かにすればクラシック界についても推測できることです。ただ、他の分野に比べればその額も頻度も規模も意識も可愛いというか、幼いというか、とにかく確信犯の者はいないのではないかと思ってしまうのですが、甘いでしょうかね)、これはまだまだ「クラシック」は清く、高尚だという迷信があるからでしょうか。

そういうものもあれば、そうでないものもあります。
すべて「人」がすることですからね。「クラシック」だけが聖域ではないと思います。

オルガンを弾かなくなってから久しいですね。
でも、本を読みながら少しまた弾きたくなりました。

No.479 '03/1/21「オルガン界への痛論?」終わり