No.11 '03/8/29

「アガル」について


練習の時は巧くいっているのに、舞台に出ると思ったようにならない。こういうことは演奏に携わっている人なら誰でも経験してますよね。
いわゆる、「アガリ性」の人たちのことです。
「アガル」事と「緊張」する事とは違うと私は思っています。
良い演奏をするには「適度の緊張」は必要です。しかし、アガッテしまうと頭の中が真っ白になってわけが分からなくなるのですから、これはあまり起こってもらいたくありません。
では、どうして「アガル」ということが起こるのか。
「環境」が変わってしまうからだと思うのです。
いつもと違う情況が不安を呼び、先が読めなくなり(予想がつかないということかな)、体が硬直してしまう状態なのですね。
「失敗したくない」「巧くいきたい」というプレッシャーもありますね。

私には一つ忘れられない思い出があります。
今までに多くの演奏会をこなしてきましたが、あの時はちょっと経験のないことでした。
学生たちに頼まれたオーケストラとの共演で、曲は変拍子の現代曲。おまけに予算がないからというので練習は削られ、悪条件が重なった上での本番の日。
私は楽屋で「アガッタ」状態になったのですね。(オーケストラ・合唱・独唱との合わせが練習不足によって全く予想がつかなくなってしまう状況でした。心配な箇所がそこかしこに!)
もうすぐ出番。しかし体は震え、頭の中が真っ白。
この時は本当にどうしようか、と思いましたね。
刻々と出番は近づいて来る。
逃げてしまいたかったですね。(今だから言えます)
その時、楽屋には大きな姿見の鏡があって、ふと私が写っているのが見えました。 そこには少し緊張気味の顔をした私がいました。
見れば、それは頭の中に思い描いていた私(ガタガタ震え、取り乱している私)ではなく、いつもと同じ私でした。
ちょっと落ち着いてきました。
眺めているうちになんか自信が湧いてくるのが感じられたのですね。(この単純さゆえに指揮者をやっています)
「今までやってきたじゃないか」「練習では何とかいった」「いつものようにやればいいんだ」の言葉が駆けめぐります。
「学生たちの努力を無駄にしてはならない」「彼らを信じて、オーケストラを信じて、そして私自身を信じてやればいいんだ」こう自分に投げかけているのですね。
結果は・・・・。「打ち上げ」パーティーは盛り上がったということで想像していただきましょうか。

「アガル」とは、今までの環境と異なる状態に置かれることによって起こるものです。
回避策としては

  1. 練習のとき、あらゆる事故を想定して行う。
  2. ふだんの日に時々「本番」を想像してみる。
  3. たっぷり練習する。(これが問題ですね)
  4. 本番の日に「心配事」ばかり考えない。
  5. 自分を信じる。
こんなところでしょうか。

結局は経験を積み重ねることが「アガリ」の不安を取り除くことにつながります。
「免疫を持つ」ということですね。
つまり、「アガリ」を繰り返すことなのです。
「アガル」ことを恐れず「なんでも経験」という精神で邁進する、これが回避策です。
「なーんだ」ですね。

No.11 '03/8/29「「アガル」について」(「合唱講座」から移行)終わり