第10回

参考文献

私の発声メトードの出発点となった本を紹介します。
私の「発声法」の準拠する著書は

フースラーの「うたうこと」
[フレデリック・フースラー/イヴォンヌ・ロッド=マーリング著 須永義雄/大熊文子=訳 音友(原著は1965年に出版)]

リードの「ベル・カント」唱法(その原理と実践)
[コーネリウス・L・リード 渡辺東吾訳 音友1986年(原書は1950年)]です。

特に、私にとって啓示ともなったのは後者の「ベル・カント唱法」。
コーネリウス・L・リードという名を見るのは初めてでしたが、その内容は私がそれまで抱いていた発声法に於ける疑問を全て解決してくれるものでした。
現在はこの著書に加えて、以下の著書を時折参照しながら実践しています。

  1. "The Free Voice " A Guide to Natural Singing.1965
  2. "Voice:Psyche and Soma"1975
  3. "A Dictionary of Vocal Terminology"1983
一方の世界的な名著であるフースラーの「うたうこと」は各国で実践され、またそれによって新しいメソードも多く生まれました(リードもその影響を受けた一人です)。わが国でもその流れを汲む声楽教師も多く、それぞれに肉付けをしたレッスンが行われてきています。
しかし、このフースラーによる教授法はまだ古い発声法を残していて、十九世紀の発声法に少し改良を加えたもののように私には見えます。
その点、リードは論を一歩進め、ベル・カントを歴史的に考察し、我々が失った自然な発声法を蘇らせようとその原理を説いています。
声楽が最も盛んで、完成の域に達したのはルネッサンス、バロック期。
現代の発声法はこの理想的な発声法の伝統が途切れた後に生まれたものだと言うのです。
これからは、十九世紀のオペラ歌手のようではなく、十七世紀の、声楽が最も盛んであった頃のオペラ歌手のように、今はもう失われてしまったと思われる発声法を研究し、新しい現代の発声法を見つけ出していこうとする本でした。

二冊の本の共通点は生理学的、解剖学的な根拠に基づいているということでしょうか。
私はこれを基に、日本人にあった心理学的要素も加え、トータルな科学的な発声法を見つけ出したいと思ったわけです。


【戻る】