第18回('97/2/3)

音の伝わり方

「音」は不思議ですね。そしてまだまだ解らないことが沢山あります。
私たちの耳の働きは精巧です。そして音を認知するメカニズムも大変複雑ですが、この魅力的な感覚を解き明かしていくことでまた一層神秘の世界、大自然の息吹を聴くことができるのだと思います。

今回は「音の伝わり方」について考えてみましょう。
屋外、室内、ホール、そしてその他というふうに分けてみましょうか。

屋外での伝わり方
音波は毎秒340メートルの速さで広がっていくのでしたね。その音の広がり方は、ゴム風船が膨らむように球状に広がっていきます。これを「球面波」と呼びます。
しかしこれは我々の生活上ではまれです。地上に立ち、そこから声を発することを考えてみても球状の広がりにはなりません。
地の底には伝わりませんし、壁などがあるとそこで反射するからです。
何もない空間を想像することは難しいです。
実際に即した図を描くならば「半球状」の伝わり方になるでしょうね。
そして発せられた音が広がっていく時、<風向き>と<温度>によって影響を受けること、音源の近くでは音量も大きいが、遠くへいくほど弱くなり、その割合は距離が二倍になれば、強さは四分の一になる性質を持ちます。
室内ではこの性質が違ってきますね。

室内での伝わり方
屋外で聞こえてくるのは<直接音>が多いですね。
それが室内では、壁、床、天井などにぶつかって聞こえる<反射音>が主流となります。
室内と屋外との音の伝わり方の大きな違いは、反射音の有無ということです。
日本家屋では体験しにくいのですが、この反射音の一つに<残響音>と我々がよく使う音の特徴がありますね。
ホールなどでよく話題となる<残響時間>というのは、音源を止めた時点から響きが何秒続くかを示すものです。響き過ぎてもいけませんし、また残響が無いのもよくありません。
さて、そのためにホールを設計する際、直接音だけでなく、適度の反射音があるように計算します。しかしこの問題は本当に難しい。
専門的なことはちょっと今は置いて、次のことは大事なこととして覚えておきましょうか。といっても既によく知られていることですが。
ホールなどの壁には吸音材料や反響板を組み合わせられ、どの周波数の反射を抑制するかなどが考慮されています。吸音材料は、カーテン、床の絨毯(じゅうたん)、客席での衣服(吸音)などですね。
一方、反射は壁の材料(硬い材質の方がよく反射します)に加えて、形と角度によって調整します。<音響反射板>と呼ばれるものが、コンサートホールの舞台の上あたりに釣り下げられているのはよく見ることです。

その他の伝わり方
今までは空気中での伝わり方でした。
水中ではどうでしょう?
水中では毎秒約1500メートルだそうです。これも水温、水圧、塩分濃度で変化しますが。
そして鉄やガラスなどでは毎秒5キロを超えるそうです。これらの音は<固体音>と呼ばれます。
この一種として、私たちが経験していることがありました。
それは、声楽家や声の職業に携わっている人たちに特に大事な知識、<骨伝導音>です。 テープレコーダーから聞こえてくる自分の聞き慣れない声にびっくりしたことがありますね。あれは日頃他人には聞こえない体の内部を伝わる直接音も聞いているからです。
硬いせんべいを噛む音が自分だけにはとても大きな音に聞こえるのも、実はこの骨を伝わって聞いていることに因るのですね。
晩年のベートーヴェンもこの<骨伝導音>を利用してピアノの音を聞いていたということです。

以上が音の伝わり方の概要です。
最後に書き忘れた音の性質、<屈折><回折>のことを。
空気中などの温度の異なる部分のところで音の伝わり方が変化します。これを<屈折>と呼び、障害物の陰に回り込んで聞こえる音を<回折>と呼びます。低音ほど回折しやすいのだそうです。

次回は<響きとその判断>についての話です。

第18回「音の伝わり方」終わり


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