私が実践する発声メトードでは、高音域を伸ばす、あるいは高音域をコントロールすることが主なる目的のような印象を与えてしまいがちです。
記述も高音域に関することが多いかも知れませんね。
カウンターテナー、やテノール、そしてソプラノです。
これは演奏上目立ってしまう声部(パート)から先ず改革していくという意識があってのことかもしれません。(特にアルトに関しては重要だと思っています。このパートの音質にって全体の印象が全く異なるものになります。アルトの高音作りが鍵です)
しかし、低音域の練習は高音域を作るためにも必修です。
全体の<色>にとってもバスやアルトの低音域での無理のない柔らかくふくよかな発声は表現の幅を広げます。
さて、ご質問の具体的な練習法ですが、これは至って簡単です。(ということで、あまり説明しなかったのかもしれません)
●<筋肉の弛緩>を生み出すあらゆる動きがその練習法です。
しかし、その動きをする前に、やらなければならないことがあります。それは、
●<筋肉の緊張>を自覚すること。
つまり、現在の緊張を感じ取り、どこに<余分な、不必要な力みが生じているか>を知ることから始めます。
一般的な兆候として、歌い手は<歌おうと構えた時>既に胸にストレスを持ちます。(息を吸って胸を高く上げ、胸を張るようです。このことによって喉頭も上がり緊張します)、その他、個人差はありますが顔の表情筋や身体全体にわたって筋肉の緊張が生じます。
これらを自覚し、目標とする<弛緩>の部分を認識するわけです。
1)歌い始めようとする時、息を吸ってはいけません。(深く、多く吸って胸を高く保たないように。これは胸に緊張を強いらせないようにするためです)
2)下顎の関節を緩めます。(だらっと口が開いていればいいですね。このまま放っておくと<よだれ>が出てくるぐらいがいいです)
半音づつ下がって声を出していきます。
「ア」の母音が良いでしょう。これは唇にも緊張させないという意味があります。他の母音では唇を前に突き出したり、引き上げたり横に引っ張る要素が加わります。
3)「ア」と言いながら(息を吐き出しながら)、半音下の音に移ります。
移った時ロングトーンです。
(音が変わるとき途切れてはいけません。息をつぐことなく一息です)この半音下へと声が移るとき、胸の弛緩も同調させます。(胸が下に下がっていくような感覚です)
ロングトーンで弛緩を完成させます。(声が震えないように、息や声帯のコントロールの練習にもなります)
ここで一息です。
4)3)で降りた音から3)と同じ要領で声を出し、さらに半音したへと広げていきます。(更に胸を下げていくような、すなわち<筋肉の弛緩>をさせていきます)
声が出なくなるところまで降りていきます。
これを何度か繰り返す。(1)〜4)までを何度も繰り返します)
これが「低音域を広げる」練習の全てです。
<重要です>無理に音域を下げてはいけません。弛緩が目的であるはずなのに、かえって強度の緊張を筋肉に強いることにつながるからです。
これは音声障害的な発声になる可能性が大ですので極力避けるようにしてください。
低音域の広がりは個人差にもよりますが、精々一音やその半音下まででしょう。
今までにも言ってきましたように、高音域は理論上、無限大の広がりがあります。
しかし、低音域は無限ではありません。個人的にその音域は決まっています(声帯の長さに依存します)。
低音域の練習、それは体全体の<筋肉の弛緩>の練習に最適です。
個人に課せられている<毎日の練習メニュー>における大事な項目の一つですね。
第38回「低音域を広げる」終わり