第39回('01/6/14)

声のひっくり返り

テノールやバスの高音域でよく声がひっくり返っている人がいます。
せっかく演奏が巧く運ばれているときにこのひっくり返りは本人とっても、そして周りの人たちにとっても気になるものです。
今回はこの<声のひっくり返り>について、その原因と対策、そして回避のための練習法を書きましょう。
(より詳しく言えば、低音域でもこの現象は起こるのですが、原因は同じものですので参考にしてください)

まず、何故<声のひっくり返り>が起こるか?
それは、高音を胸声で歌い続けようとしたとき(我々日本人には胸声を「地声」と名付けた方がイメージし易い人がいるかも知れません)、声帯及び関連筋がよりふさわしい頭声〔ファルセット〕(我々日本人には「裏声」と名付けた方がイメージし易い人がいるかも知れません)に切り換えようとするために起こる現象なのです。つまり、一種の筋肉の「自己防衛」的働きなんですね。
筋肉の「これ以上収縮できない!」という限界線での急変です。
もう少し詳しくいうと、
胸声(地声)の特徴である、太く、短く、声門閉鎖の強い声帯の状態から、頭声〔ファルセット〕(裏声)の細く、長く、声門閉鎖の弱い声帯の状態へ移行することなのですね。
この急変の動きは、2つの異なる性質、伸縮自在な筋肉と自ら収縮できない靱帯とからなる組織構成によるものだと言われています。

*<声のひっくり返り>を利用した歌唱法に<ヨーデル>がありますね。
あれは意識的にファルセットと胸声(実際の演奏では、より洗練された「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」が用いられていますが)を交互に用いたものですね。

防ぐ対策としては、やはり「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」の習得ということになります。
原因が胸声(地声)による「収縮」にあるわけですから、「伸展」を基盤とした発声、「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」が良い、というわけです。

*初めから「声のひっくり返り」のない人は稀です。もし経験がないという人がいらっしゃれば何と恵まれた方でしょう。しかし、こういった幸福な人はなかなか出会うことがありません。私の知る限りにおいて、ということになりますが、現在活躍中の歌手でも昔はよく「ひっくり返り」を聴かされました。「ひっくり返り」を数多く経験して歌手は成長していくということなんですね。

さて、練習法です。
初めは「下降」の音型による練習。(「上行」の音型を用いるのはその次の段階です)
音階がいいですね。(分散和音はまだです)(「ひっくり返り」の起こる音を中心としてその前後3音からなる音階です。最初は3〜4つの音ぐらいから行えばいいと思いますが、進めば例えば女声だと、真ん中ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド・シ・ラ、男声だと、高いファ・ミ・レ・ド・シ・ラ・ソ・ファなどを用います。この練習音域は個人差がありますので各個人にあった音階を見つけてください。またその音階は固定的に捉えず、移動させていきます)
ハミング(唇を閉じ、鼻腔に響かせます)でファルセット音域から胸声音域へと向かいます。「ファルセット」から入って「ひっくり返り」音の通過時に「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」作りへの調整です。(何度も書きますが、ここのところを文章でなかなか表現できないのがはがゆいです)
次ぎに、メゾピアノの声量と柔らかさで「ナーナーナーナー」「マーマーマーマー」を使っての練習です。(その後「ルルルルル」を用いて歌うと良いでしょう)

「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」ができた段階で、練習音型を変えます。
下降の「分散和音」です。

さらに、それができるようになれば、
上行型を使います。
上行型は「分散和音」がいいですね。(上行型の音階は今暫く置くほうがいいと思います)

最後は、上行、下降による「音階」「分散和音」の統合です。

「声のひっくり返り」を無くす練習は、細心の「声」を聴く集中力が必要です。
しかし、「ひっくり返り」の無い「歌声」が達成されたときの喜びは厖大です。
お悩みの方、一度試みてください。

第39回「声のひっくり返り」終わり


第回「」終わり(この項次回につづく)


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