第40回('01/11/1)

母音の純粋化(その新しい試み)

演奏会を重ねるごとに「母音」がいかに大事かが解ってきます。
合唱において言葉を明瞭にするために、明るい響きを維持しつつ、子音を導き出す舌の動きを円滑にした音の分離を図るわけですが、こればかりに気を取られすぎると声そのものが美しく響かなくなることがあります。

今回は歌声の基本発声に立ち戻って「母音」の練習について書くことにします。

実は、これを契機に「大阪ハインリッヒ・シュッツ室内合唱団」および「大阪コレギウム・ムジクム合唱団」の練習方法を切り替えることにしました。
今まではファルセット「ア」の母音から<声だし>をしていたのですが、これからは「イ」の母音から始めます。ただしこれは「ヴォーチェ・ディ・フィンテ」による<声だし>です。
ファルセットは今まで通り、「ア」の母音、そして新たに加わる「ウ」(ドイツ語のU-ウムラウトです)による「声だし」になりました。

それではその理由と、実際の練習法について書きましょう。
まず、何故「イ」による母音練習なのか?
それは、力んでしまいがちな「イ」の母音は実は最も力まずに出せる母音だからです。(ただし明るい母音づくりをするため、高い倍音を含ませる関係上、軟口蓋(口蓋帆)を上げ、鼻腔を拡げる作用はいりますが)
この力まない「イ」の母音ができれば「エ」もよく響くようになり、至っては「ア」の母音がふくよかで深い響きになる効果をもたらします。
実際にやってみましょう。

【練習】
まず、唇は横に開かず、つまり横に引っ張り上げないで、普通に弛緩した状態での口の開け方です。(くどいようですが、口を横に引っ張らないように)
軽く開いた唇、それは指が一本入る程の開きで充分です。
ここからがポイントです。
舌の先端は下の歯の根っこに触れさせます(重要)。
その舌に力を入れず「イ」を発音します。すると舌の真ん中ほど(前よりです)が少し高くなるはずです。
そこで鼻の奥を開くようにし、鼻孔も開いて前方に当てるよう空気を流します。
そうすると、響きは鼻の先(前)で共鳴し、実際の空気の流れ(呼気)も上の歯の根っこ当たり(硬口蓋)を通過しているはずです。
力まない、(鼻腔に)良く響いている「イ」になりましたか?

この響きができると「エ」は簡単です。
舌の中程(前よりですね)が高くなっているのを、低くするだけです。
下顎を動かしてはいけません。
口は「イ」のままです。舌だけが動くのです。
どうですか?
力まない、(鼻腔に)良く響いている「エ」になりましたか?
(鼻腔は「イ」の時と同じように、良く響く状態に保っています)

これを母音作りの基本とします。
この力まない、良く響いた響きを体得したなら、次に唇を少し開いたアとエの中間母音を出します。(重要)ここで舌が歯の根っこから離れます。
ここでも上手くだせるようになれば、「ア」の母音です。この時さらに舌の先端が歯の根っこから遠ざかります。

各母音の関係、舌の高さの関係を図にしたものを下に掲載しておきます。
図について少し説明しておきましょう。
日本語の「う」は欧米語の「U」より唇を丸くする度合いが弱いこと、そして舌も奥まらないことを表しています。
ドイツ語のU-ウムラウトは「イ」よりも舌が高い(先端は下の歯の根っこです)ことを表しています。
更に、欧米語によく出てくる弱母音、あるいは中間母音の「a」でもなく「e」でもない「う」のように聞こえる母音は全く力みなく発声される音であることが解ります。


この練習の目的は
力まない母音、声を圧することのない響き、高倍音を意識した響き、明るい響きづくりがその目標です。
こうすれば、深く暗い母音になりがちな「a」や「o」などもよく響き、遠くへ飛ぶ勢いの良い声となるわけです。

第40回('01/11/1)「母音の純粋化(その新しい試み)」終わり


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