第45回

「OCM式日本語50音」発音

日本語50音


合唱音楽では「発音」が重要であることは周知の事柄。しかしながら、実際の現場ではなかなか統一できていないのが現状ではないかと思います。
「日本語音声学」としての個々の研究はあるのですが、国としての「標準」が曖昧であるということにも一因があるのではないかと私は考えます。
以前より「大阪コレギウム・ムジクム」ではこの問題と取り組み、解りやすいクリアーな響きを追求しての演奏を試みてきたのですが、現在では多くの方々の「評」を通して一定の成果を得たのではないかと考えます。
「発音」にとって大事なことは大きく分けて、「口の開き・唇の形」「舌の位置・動き」「口腔内の形状・容積」です。特に、舌の位置と動きは私たち日本人が取り組むべき課題が大いにあるように私には思われます。
ここに「OCM式日本語50音」の発音法を公開します。
中にはこれまでの一般的な発音と異なるものもありますが、「試案」ということで提案し、皆さんのご意見を頂き、実践を通じてよりよき発音法づくり、表記づくりへと改良を重ねていくことができればと願っています。

発音に関与する名称について
舌の名称は四つの部分に分けて、1)舌先〔したさき〕、2)前舌〔まえじた〕、3)中舌〔なかじた〕、4)奥舌〔おくじた〕と読むことにします。
また口腔内部の名称として、上歯〔じょうし〕、下歯〔かし〕、歯茎〔はぐき〕、硬口蓋〔こうこうがい〕、軟口蓋〔なんこうがい〕も出てきます。イメージしながら読んで頂くとより理解し易いかと思います。
「母音」の発音
「イ」
口はやや横に開き、舌先はどこにも触れない状態で(舌先を軽く下歯の歯茎に触れてもよい)前舌を硬口蓋に近づけ(舌の後部は力まず低い位置)、その状態から息を上歯の歯茎に当てて発音。
「エ」
口は「イ」より弛み、前舌を少し弛ませて「イ」の位置より低くする(舌先が軽く下歯の歯茎に触れている場合はそのまま状態)。前舌から中舌(舌の真ん中部分)にかけての高低によって音色が変化(舌の後部は「イ」に同じで力まないで低く)。 息は上歯歯茎の上に当てる感じ。
「ア」
口は「エ」より更に弛ませ自然な開きになり、舌は脱力して下あごに平坦な状態で乗っている状態(舌先が下歯の歯茎に触れている)。息を上歯の歯茎の上に当てて発音。
「オ」
口は「ア」より少し丸めた状態。舌は奥へ引っ張られ、舌先は下歯の歯茎から少し離れ、奥舌がやや高くなるイメージ。息は硬口蓋の中程に向かって当て、口の奥の中程が響くイメージ。
「ウ」
口は「オ」よりもさらに閉じた状態(できるかぎり唇には力をいれない)。舌もより引っ張られ、舌先が下歯の歯茎から離れる距離も長い。息は軟口蓋に前部に当て、口の奥の上を響かせるイメージです。

母音の三角図

ここをクリックすると舌の動きのアニメーションを見て頂けます。

「母音」の練習法(「母音」は非鼻母音として練習しなければなりません)
1)先ず、下あごの脱力に伴う自然な半開きの口を作ります。(これが「ア」の発音ポジションとなります)その状態で顎を動かさず、舌のみを動かして発音。舌の動きと、それに伴った響きの変化がよく解ります。
「イ・エ・ア・オ・ウ」「ウ・オ・ア・エ・イ」
2)次に、「イ」の発音のために下あごを上あごに近づけ、少し緊張状態を保ちます。
「イ」「エ」「ア」の母音を下あごの積極的な脱力の動きによって(舌の動きもそれに伴います)発音します。
この動きでの発音は下あごの脱力の訓練にもなります。
3)「イ」「エ」「ア」のグループと「ア」「オ」「ウ」のグループに分けて練習。
まず、舌の運動として「ウ」「オ」の練習。その後、構造的分離練習とした「イ」「エ」「ア」、「ア」「エ」「イ」/「ア」「オ」「ウ」、「ウ」「オ」「ア」をそれぞれ練習です。
「子音」の発音について
まず、「破裂音」(はれつおん)、「摩擦音」(まさつおん)、「弾き音(はじき音)」、「破擦音」(はさつおん)の違いを知ることから始めます。

「破裂音」=バ行、パ行、カ行「タ・テ・ト」、ガ行「ダ・デ・ド」、の子音。唇どうしや舌のある部分が歯や口蓋のある部分にいったんついたあと、直ぐ離れて出す音。
「摩擦音」=サ行、ハ行の子音。狭いすき間を息が通るときの摩擦音。
「弾き音」=ラ行の子音。舌先が軽く歯茎を打って(はじいて)出す音。「あら!」
「破擦音」(はさつおん)=日本語での「チ・ツ・ジ・ズ」の子音。「ツ」のように、まず、歯茎に舌先を付け「t」の位置からすぐさま「s」を発して出す音。破裂音+摩擦音ということでこの名が付く。
(*現在、「ズ」と「ヅ」、「ジ」と「ヂ」の区別はありません。しかし歴史的には区別がありました。「ジ」と「ズ」は「摩擦音」、「ヅ」と「ヂ」は「破裂音」であったようです)

「子音」の発音
(*色をつけてあるところは注意すべき箇所を示しています)
「カ行」
軟口蓋に奥舌をつけて息を止め、息を吐き出すと同時に瞬間的に離して発音。
「キ・ケ・カ・コ・ク」
「ガ行」
「カ行」より奥の軟口蓋に奥舌を当てて発音する。
「ギ・ゲ・ガ・ゴ・グ」
「鼻濁音ガ行」
鼻に息を抜きながら発音する「ガ行」。優しく柔らかい響き。
「サ行」
「S」無声音と「Z」有声音の違いを知ることから練習を始める。
「S」は無声摩擦音で、「サ・ス・セ・ソ」は舌先を上の歯の歯茎に近づけ、そのすき間から息を強く出し、摩擦させることで発音する。
「シ」は舌の位置が少し後ろになり、舌先が積極的に立っているイメージ(どこにも触れていません)。強調するときは摩擦音を長くとる。
「シ・セ・サ・ソ・ス」
「タ行」
「タ・テ・ト」は舌先を上歯や上歯の歯茎につけて、息を吐き出すと同時に瞬間的に離して(破裂させて)発音。
「チ」は「破擦音」としてでなく、口をやや横に開き、舌先は下歯の歯茎の下、奥舌を少し上げて上歯と下歯の間に息をぶつけて発音。(摩擦音を強調した、あるいは強調できる発音)
「ツ」は「チ」と同じ舌の位置、そして息の当て方をし、口を(唇を少し丸めて)前に出して発音。
(*一般的に日本語の「チ」「ツ」は破裂音+摩擦音の「破擦音」として分類されていますが、私は試案として「摩擦音」として発音することを奨めます。これは発音後の脱力と口腔の広さを優先させてのことです。
練習順序:「チ」「テ」「タ」「ト」「ツ」
「ナ行」
上歯の歯茎に舌の先をくっつけ、鼻から息を吐きながら発音する。(鼻腔にまず響かせます)
練習順序:「ニ」「ネ」「ナ」「ノ」「ヌ」
「ハ行」
声帯を閉じず、少しのすき間に息を流しての発音。
「ハ・ヘ・ホ」の「h」は無声の声門摩擦音で後に続く母音を待機している息の音。口の中は何も抵抗無く発せられる。
「ヒ」は硬口蓋に前舌を接近させ、その間を抜けてとおる息の摩擦音。上歯の根の辺りに息をぶつけて発音。(摩擦音)
「フ」は唇と歯は上下がそれぞれ接近しながら、しかし触れ合わせず、唇に力を入れず息をやや強く発して発音(ろうそくを吹き消したり、熱いお茶を吹いて冷ます時の「フー」のイメージで、柔らかい響き。)
「パ行・バ行」
唇を閉じ、息を送って瞬間的に開いて発する音。
「パ行」は声帯を震わせないで発する無声音。「バ行」は声帯を震わせて発する有声音。
「マ行」
唇を閉じ、開きながら鼻に息を抜いて発音。(鼻腔にまず響かせます)
練習順序:「ミ」「メ」「マ」「モ」「ム」
「ヤ行」
舌は「ヒ」とほぼ同じポジションを取り、硬口蓋(こうこうがい)に息をぶつけて発音。
練習順序:「ヤ」「ヨ」「ユ」
「ラ行」
「弾き音」として発音します。(*一般的にはラ行は「l」の「破裂音」としても発音している)
まず英語の「r」のように舌の先がそり返って硬口蓋のほうに向かい、そのあと、舌の先で上歯の歯茎を弾(はじ)いて発音
練習順序:「リ」「レ」「ラ」「ロ」「ル」
「ワ行」
「ワ」は「ウ」の口の形から息を吐き出しながら素早く「ア」の形に移行して発音。
「ン」
話言葉の発音として「ン」には「日本橋」「日本刀」「日本画」のように3種類あります。
「日本橋」の「ン」は唇を閉じての発音(両唇音)、「日本刀」の「ン」は舌先を上歯の歯茎に当てての発音、そして「日本画」の「ン」は軟口蓋に奥舌をつけて発する音です。
私は「歌」でもこの3種を前後の言葉によって使い分けて使用していますが、<奨め>としては良く響く、舌先を上歯の歯茎に当てての発音を推奨しています。
練習に当たっての注意事項:
「母音」の練習時でも、「子音」の場合も、それぞれ《息の当てる場所》が大切だと思います。
《息》よって声の色、明暗が変わります。
息が鼻に抜けることなく(もちろん鼻濁音は別)、口腔内の響く場所を感じながら、上向き方向の声、明るい声、力強い声、芯のある声づくりを心がけるようにして下さい。
響きは、口腔→鼻腔→額(〜頭頂)へと突き抜けていくイメージです。
口腔内だけに響きが留まらない《息》の方向・強さが秘訣かと思います。
全体を通して、練習では必要な筋肉だけが動きます。〔脱力〕がキーワードです。


第45回「「OCM式日本語50音」」(この項終わり)


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